肝煎屋敷
今日のもうひとつの目的地である肝煎屋敷は、沖津根神社から一番近い集落にある。
「今度はあっさり着きましたね」
「はい」
「肝煎屋敷というからには、立派な日本家屋を想像していたのですが……洋館、ですか?」
「はい。明治の中頃に建て直されたと聞いてます」
「なるほど。今は誰も住んでいないようですが」
「おきつねさまの祟りを恐れて、引っ越されました。今はこの村にはいません」
先生は屋敷を眺めるのをやめて、僕の方へ向き直った。
「家屋をわざわざ建て直したり、祈祷師を呼んで大がかりにお祓いをしたり。色々試したそうですが、おきつねさまの祟りからは逃れられなかったようで」
「何があったのですか」
「知りません」
先生の眉間に皺がよる。
「この村では、祟りにあって死んだり、行方不明になったりした人の話をしてはいけないことになっているんです」
「……」
「話をすれば、必ずおきつねさまの耳に入り、その話をした者にも災いを成すと言われています。だからこの村では、不自然に亡くなったり所在が分からなくなったりした者がいても、誰一人話題に挙げたがらないのです」
「……なるほど」
先生は、一応納得した様子であった。
「ちなみに、この中には入れますか?」
「それは無理です。今は村の所有物になっていますが、立ち入り禁止になっていたはずですよ」
前にも尋ねられた覚えのある質問だったが、僕はそれには触れずに答えた。
「そうですか」
先生は残念そうに屋敷を眺めると、言った。
「では、行きましょうか」
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