彼女は“姫”と名乗った!

崔 梨遙(再)

1話完結:900字

 それは十数年前の話。その頃には、まだテレクラというものがあった。恋人を見つけるため、僕はテレクラに行った。


 電話が繋がった女性は、僕よりも少しだけ年上だった。年上なのだが、やたら上から目線の話し方をするので印象は悪かった。年上だからといって、ここまで上から目線で話されれば不快になる、というくらい上から目線の話し方だった。


 “もう、電話を切ろうかな?” と思った時、相手の女性が言った。


「私のことは姫って呼んでくれたらいいから」


 “何を言ってるんだ? この人は” と思ったが、姫は言葉を続けた。


「前の彼氏にも“姫”って呼ばれてたの」


 そこで、僕は姫に興味が湧いた。元彼が姫と呼ぶということは、本当にお姫様みたいな素敵な女性なのかもしれない。


「どこら辺が姫なん?」

「ビジュアルに決まってるじゃないの」

「そんなにキレイなん?」

「まず顔、そしてスタイル。私Fカップだけどウエストは60だし、身長も166あるからモデル体型なの。それから、みんなから上品だって言われる」


 “その、みんなというのは誰のことなのだろう?”


「とりあえず、会おうよ。会わなきゃ始まらないんだから」

「わかった、会おう。待ち合わせ場所を決めてや、行くわ」



 会って、驚いた。


 “どこが姫やねん?”


 確かに、スタイルは良かった。だが、非常に残念な顔立ちだった。立ち居振る舞い、そして喋り方だけ姫だった。要するに、わがまま姫だ。


 居酒屋に入ったがテンションが上がらなかった。


「なんで、そんなにテンション低いの? 私よ、私と食事が出来たのよ、もっと喜びなさいよ」


 そんなことを言われても、テンションは上がらない。僕は1時間半だけ辛抱することにした。そして1時間半が経った。


「そろそろ出よか?」

「うん、出ようか」


 僕は、一仕事終えたかのように疲れていた。


「ほな、今日はこれで解散ということで」

「うーん、どうしようかなぁ、私、今夜はホテルに行ってもいい気分なのよ」



 “えー! 何て言って断ったらええんや?” 僕は窮地に追い込まれたのだった。で、姫の女性としてのプライドを傷つけないように“腹が痛いから無理”と言って断った。すると、


「ああ、それで食事中もテンションが低かったのね」


と、勝手に納得されてしまった。







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彼女は“姫”と名乗った! 崔 梨遙(再) @sairiyousai

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