第14話 過去の影と再会

アゼルの心には静かな波紋が広がっていた。彼は仲間たちの目を避けるように少し離れた場所に腰を下ろし、目を閉じた。


突然、彼の意識は過去へと引き戻される。魔王の側近として過ごしたあの頃の記憶が鮮明に蘇ってきた。


広大な黒い城。巨大な石の柱が並び、天井は高くそびえ、薄暗い光が差し込む。冷たい空気が漂い、城内は常に静寂に包まれている。


アゼルは魔王の側近としての役割を全うしていた。彼の任務は魔王の命令を実行し、王国を守ることだった。魔王の力を補佐し、忠実な部下として仕えていた。


「アゼル、来い」と魔王の声が響いた。


アゼルはすぐに跪き、「はい、魔王様」と答えた。彼の目の前に立つのは、冷酷で圧倒的な力を持つ魔王だった。魔王の姿は恐ろしいほどの威圧感を放ち、その目には冷たい光が宿っていた。


「我が命令を聞け。敵国が我々の領土を侵そうとしている。奴らを滅ぼし、我が力を見せつけよ」と魔王が命じた。


アゼルは深く頭を下げ、「承知しました、魔王様」と答えた。彼の心には疑念も恐れもなかった。魔王の命令を遂行することが彼の存在意義だったからだ。


アゼルは魔族の軍勢を率いて戦場に赴いた。敵国の軍勢と対峙し、激しい戦闘が繰り広げられた。アゼルの炎と氷の魔法が戦場を駆け巡り、次々に敵を打ち倒していった。


「この力がある限り、誰にも負けることはない」とアゼルは心の中で叫びながら、敵を圧倒し続けた。


しかし、戦いの中でふと、敵兵の中に一人の少年が混じっているのに気付いた。彼の目には恐怖と絶望の色が浮かんでいた。


「なぜ、この少年が戦場に?」とアゼルは一瞬動揺した。


その瞬間、少年の目とアゼルの目が合った。少年の目には懇願の色が浮かび、助けを求めるかのように見えた。


「助けて…」少年の口からかすかな声が漏れた。


アゼルは一瞬ためらったが、次の瞬間には魔王の命令を思い出し、冷酷にその場を離れた。


アゼルは目を開け、現実に戻ってきた。彼の目の前には、仲間たちが心配そうに見守っていた。


「アゼル、大丈夫か?」とカイルが尋ねた。


アゼルは静かに頷き、「ああ、大丈夫だ。ただ、昔のことを思い出していただけだ」と答えた。


その時、村の入口で何かが起こっているのに気づいた。遠くから叫び声が聞こえ、アゼルたちはすぐにその方向に駆けつけた。


村の入口では、影の教団の魔族たちが再び襲撃していた。その中には一人の青年が立ち向かっているのが見えた。彼の姿を見た瞬間、アゼルの胸に記憶が蘇った。あの戦場で見た少年だ。


「レオン…?」アゼルは呟いた。


青年は必死に戦っていたが、数の多い敵に圧倒されていた。アゼルはすぐに行動を起こし、魔法で敵を一掃した。


「大丈夫か?」アゼルが声をかけると、青年は驚いた表情でアゼルを見つめた。


「あなたは…?」青年が尋ねた。


「俺はアゼル。昔、戦場で君に会ったことがある。君を助けられなくて、ずっと心に残っていた」とアゼルは正直に話した。


青年は驚きながらも、「俺はレオン。あの時のことを覚えている。あの戦場で生き延びて、今は村を守るために戦っている」と答えた。


アゼルは深く頷き、「レオン、君の力が必要だ。共に影の教団を倒し、この世界を守ろう」と言った。


レオンは決意の表情を浮かべ、「俺も一緒に戦う。あの時の恐怖を繰り返させないために」と力強く答えた。


アゼルたちは新たな仲間を迎え、影の教団との戦いに挑む決意を新たにした。彼らの冒険は続き、未知の未来に向かって新たな一歩を踏み出していくのであった。

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