暁プリ──青空の王子と暁のプリンセス── 転生した悪役令嬢は、そのすべてをもって愛する王子とプリンセスを導きたい
想いの力のその先へ
プロローグ 婚約破棄?
「アンナ! アンネローゼ・フォン・ハミルトン。僕は、今日ここで君との婚約破棄を宣言する!」
豪華絢爛な舞踏会場。そこにある意味似つかわしくないソプラノボイスの怒声が響き渡る。
……長かった、本当に長かった。遂にこの時が来たんだ。
目の前にいる金糸のサラサラとした髪を短く整え、スマートながらも男を感じさせる体つきをした美男子こそが、怒声の主。名をジュリアン・カルディア。この国、カルディア王国の王太子にして世継ぎ。次期国王だ。
そして、俺――。失礼、わたくしハミルトン公爵家が一子。公爵令嬢たるアンネローゼ・フォン・ハミルトンの婚約者殿。……いや、だった。と言うべきか。つい今し方、かの方の口から婚約解消の言葉が紡がれたのだから。
「――姉さま」
ジュリ坊、ジュリアンの影から1人の少女が現れる。濡羽のカラスのごとき艶やかな黒髪を肩口で切り揃え、素朴な愛らしさを感じさせる少女。
彼女こそがジュリアンから寵愛を
彼女は悲壮な顔でこちらを見つめてくる。
なんて顔をしているんだ。これからジュリ坊と、ジュリアン王太子との輝かしい未来が待っているというのに。
ジュリ坊もジュリ坊だ。自身の愛する人を曇らせてどうする。肩を抱き寄せ、大丈夫だ。とささやく程度のことはしてもらわないと。安心して我が妹を託せないではないか。
きっと2人は幸せな未来を築くと信じている。が、それはあくまでわたくしが未来を、可能性を知るがゆえ。
『蒼空の王子と暁のプリンセス』という名の
もっとも、何の因果か。前世において男だった俺が、今世でアンネローゼ・フォン・ハミルトン。この世界における悪役令嬢に転生した、というのは不可解を通り越して不可思議、と言う他ないが。
「ふ、ふふっ……」
「なにが、おかしいっ――!」
しまったな、ついつい笑いが漏れてしまった。急にわたくしが笑ったことでジュリ坊が怖がっている。そんなに顔を歪ませなくとも、危害を加えるつもりなど端からないというのに。
ただ、本当に嬉しかっただけだ。……別にジュリ坊との婚約が嫌だった、と言う訳じゃない。この地に生を受けて早18年。貴族の令嬢がどの様な役割なのか、と言うことは理解している。
それにジュリ坊は贔屓目に見ても優良物件なのは間違いない。きっと、このまま婚約を続けたとしても、わたくしのことを大事に、大切にしてくれただろう。
だからこそ、だからこそだ。
彼が好青年である、ということは今までの付き合いでよく分かっている。乙女ゲームの攻略対象だったとしても、それを抜きにして好感に値する青年だと。
正直、そんな青年と婚約破棄しようなどというのは気が狂ってると思われるのも仕方ない。
それでも、だからこそ。彼に妹を、大切な家族を頼みたい。……これは、わたくしのわがままだ。そして、本来のアンネローゼ・フォン・ハミルトンもまた同じことを思ったのだろう、と今なら分かる。
それほどまでに舞台が整っていた。カルディア王家だけじゃない。他の攻略対象、ヴァレンティーヌ家、ヴォルフ家、クリスタル家、ブラッドフォート家。そして我がハミルトン公爵家。各家を取り巻く状況、すべてが最愛の妹、クロエのため誂えられたようなものだったのだから。
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