第6話 空飛ぶ魔法

「マナは魔法がないところからやってきたんだよね? じゃあ、いろんな魔法を見せてあげるよ!」


 ルファはそう言って、近くにあったホウキを手に取る。


「まずは、空飛ぶ魔法ね! さっきは落下しちゃったけど、速度さえ出しすぎなければ大丈夫なはず……」


 ぶつぶつと呟くルファ。

 

 わたしは魔法が見られるワクワク感で彼女のことを見守っていた。


「─────!」


 再び、歌うように紡がれる言葉。

 

 周囲に建物はないのに、こだますようで、聴き入ってしまうほど綺麗だった。

 

 音が途切れたころ、ルファの足が地面からふわりと浮かび上がった。

 

 みるみる上昇していき、あっという間にわたしの身長よりも高いところに到達する。

 

 そして手に持ったホウキへ、横向きに座る。

 

 そのまま、すいーっと軽快な動作で大空を縦横無尽に飛び回る。

 

 その姿はまるで、魔女のようだった。

 

「す、すごい! ……魔女だ!」


 ルファの飛ぶ姿に感動して、思わず声をあげる。

 

 どこまでも自由に宙を駆けるルファは、気持ちよさそうに目を細めた。


「よくわかったね。ワタシ魔女なんだ! と言っても新米だけれどね」


 本当に魔女だったようだ。

 

 わたしは魔女が実在するという事実に心が震えだす。羨望の眼差しでルファを見上げる。


「マナも一緒に飛ぶ?」


 不意に投げられた疑問に、わたしは答えを言い淀む。

 

 空を飛ぶのは確かに楽しそうだ。

 ワクワクするし、今だって飛びたくて手を伸ばしそうなほどの思いを胸に抱いている。

 

 けれど、実際に飛んでみたら怖いかもしれない。

 

 不安がわたしの気持ちを揺るがせる。

 

 ホウキだけだから、他に支えがない。

  

 もし落ちたらどうしよう。

 

 わたしが決めあぐねているとルファは地面へと降りてきた。


「飛びたく、ない?」


 透明な水のように透き通った瞳がわたしに向けられる。

 申し訳無さそうに、不安そうに、その瞳が微かに揺れる。


「飛びたいけど、怖いの」


 わたしは素直に気持ちを伝えた。

 飛びたい気持ちと怖い気持ちが半分ずつくらいで、どっちも伝えるべきだと思ったから。


「じゃあ、低いところをゆっくり飛んでみるから、それならどう?」


 わたしのことを尊重してそう進言するルファ。

 彼女の優しさに応えるようにわたしは「うん!」と満面の笑みで頷いた。


 さっきとは違って、ルファはホウキにまたがって乗る。

 わたしはルファの後ろに乗って、両腕をルファの背中側からお腹側へと回す。


「よーく捕まっていてね」

 

 回した腕に力を込める。

 

 ゆっくりと、足が地面から離れていく。

 

 そして、浮遊した。


「と、飛んでる!」


 ほんの少しだけ浮かび上がっただけだけれど、わたしはすごく感動した。

 

 魔法で飛ぶってこんな感じなんだ。

 

 魔法ってすごい!

  

「ルファ、もっと高く飛んでほしいな」


 逸る気持ちのまま、ルファに伝える。

 

 ルファはわたしのほうを振り返り、「わかった」と元気よく返事をした。

 

 じわりじわりと上昇していく。

 

 地面が遠ざかっていくにつれ、空が近づいてくる。

 

「わあぁぁぁ!」


 空を飛んでいる。

 

 実感を伴った空飛ぶ魔法にわたしは感動する。

 

 飛行機に乗って空を飛んだことはあるけれど、それとはまた違った感じで、生身で飛んでいるという感覚に近いのだ。


「楽しい?」

「うん、すごく楽しいよ! ルファ、乗せてくれてありがとう!」

「えへへ」


 わたしが感謝を述べたからか、ルファは嬉しそうに笑った。


「ちょっと速度あげてみよっか」

「へ」


 喜んだルファは気分が乗ったのか、そんなことを言い出した。


 わたしはこのままゆっくりと空を飛んでいたかったのだが。

  

 停滞気味だった景色が、流れるように移り変わる。


「びゅーん!」

「わわわ……」


 速度が出ると、さっきよりも遥かに怖い。

 

 けれどスリルがあるのも楽しい。


 感覚としては、ジェットコースターに近いかもしれない。

 

 わたしはルファにがっしりしがみついたまま、空の旅を堪能したのだった。

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