ハート・ボイルド③

崔 梨遙(再)

1話完結:1000字

 黒沢影夫は私立探偵。探偵事務所を営んでいる。同時に、超常現象解決所も兼ねている。


 黒沢は立花旦那の依頼で、立花の妻の椿の浮気調査を続けていた。車で立花宅を見張っていると、徒歩と電車の椿に逃げられ、徒歩で見張ると自転車で逃げられる。ということで、その日、黒沢は電動自転車で立花宅の玄関の斜め前、電柱の影から椿の様子を見張っていた。


 椿は、今度は車で家を出た。黒沢は電動自転車で追いかける。追いかける。追いかける。だが、車は高速道路に入り、黒沢は尾行を断念した。黒沢は、報告書にまた“本日、異常なし”と書いた。


 原付で挑んだこともあった。やはり高速に入られて逃げられた。その日も、黒沢は日報に“本日、異常なし”と書いた。


 そして再度、車で立花宅の前で見張った。案の定、椿は自転車で家を出た。ここが勝負だ。黒沢は全速力で走っておいかけた。苦しくなったが頑張った。椿は自転車をパチンコ店に置き、男の乗る乗用車に乗り込んで消え去った。もう少しというところだったが証拠写真は撮れなかった。また日報に“本日、異常なし”と書いた。


 捜査最後の日、黒沢は車で徒歩の椿の後をつけた。案の定、椿は駅の構内に入って行った。黒沢は車をロータリーに停めて駅の構内に入って行った。そこで、椿を見失った。しばらく椿を探したが見つからず、車に戻るとレッカー車で移動されていた。



 そして報告の日、立花旦那は報告書を見て喜んだ。


「なんだ、椿は浮気してなかったんですね」

「ええ、この1ヶ月、怪しいことは何もありませんでしたよ」

「毎日、“本日、異常なし”でしたか? ああ、良かった。ありがとうございました」

「では、期日までに報酬と経費をお振り込みください」

「わかりました。では、失礼します」


 黒沢は、椿が浮気しているであろうことを知っていたので、少しだけ罪悪感を感じた。だが、報酬はキッチリもらうことにしたのだ。



「影夫さん、次の仕事は何ですか?」


 事務所には、事務員が出勤するようになった。名前は操。操は黒沢の依頼主だった。大学生の息子が砂かけ婆に誘惑されていて相談に来たのだが、まだ40歳、元モデルの美しい姿、黒沢は砂かけ婆にもらった惚れ砂を使って操の心を手に入れたのだった。惚れ砂で黒沢に惚れた操は黒沢に“毎日会いたい”と言われ、事務員として雇うことになったのだった。


「次の仕事は、これだ! 操も手伝ってくれ」



 小さなカプセルと、小さなおもちゃ。カプセルにおもちゃを入れる内職だった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ハート・ボイルド③ 崔 梨遙(再) @sairiyousai

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る