第5話

「陰陽師…」


その名称自体は瑛晴も聞き覚えがある。

映画の題材にもなった古来日本に存在したとされる人々。

だがそれはついぞ昔の話である。


「なんだやっぱ俺夢見てたんだな。リアルな夢だぜ」


「残念ながら夢じゃないよー。さっき自分で言ってたじゃーん」


「そんなこと言ったって信じられるかよ!そんな作り話みたいな」


「そう。作り話みたいな本当の話なんだよ。現に君は人が喰われている場面を目撃している」


それとも。男はニヤリと口角を上げる。


「さっきの出来事は信じられるのに僕の言うことは信じられないのかい?」


「……」


堪らず黙り込んでしまう。確かにそうだ。先程の出来事が現実なのだとしたらこの男の言うこともまた事実なのだ。


「…わかった。今はあんたの言うことを信じる。話の腰を折って悪かったな」


「いーえ。別に気にしてないよ。言ったでしょ、普通の人なら一目散に逃げ出すって」


それじゃあ続けるよー。男は瑛晴の目の前に自分の掌を差し出す。


「僕たち陰陽師は古来から邪魂。簡単に言うと悪霊、怨霊と言われる類だね。それらを祓い、鎮魂する事を生業にしてきた。本来はもっといろんな事してたんだけども、それはまた今度」


「わかった」


「素直だねぇ、僕素直な子は好きだよー。じゃあ話を戻そう。現代において陰陽師の仕事ってめっきり減っちゃってさぁ、今も行われてるのが邪魂の討伐・鎮魂ってわけ」


アンダスタンド?とむかつく片言英語で聞かれるが、ここは大人しく頷いておく。


「そして僕たち陰陽師は陰陽道を用いて邪魂に対抗する。こんな風にね」


目の前に広げていた掌から突如として黄金色の炎が燃え上る。


「うおっ!な、なんだこれ」


「これも陰陽道の一つだよー。特別って言うと語弊があるけど、この力を使って戦うのが僕たちさ」


パンッと掌を叩きまた開くと、炎は跡形もなく消えていた。


「すげぇ…」


「でしょー?邪魂の専門家である僕たちだって特殊な力を使うのに、素手で殴りかかるとか君ほんと面白いねぇ」


「知らなかったんだから仕方ねえだろ!」


当時は必死で殴る選択以外思いつかなかったが、目の前でゲラゲラ笑う男を前に少し気恥ずかしくなる。

このままだとこの男のペースだと気づいた瑛晴は別の疑問をぶつけた。


「てかよ。当たり前みたいに喋ってるけど、その邪魂ってのはそもそもなんなんだ」


この質問に今の今まで笑っていた男はピタリと静かになる。

真剣な面持ちで徐に座り直すと口を開いた。


「邪魂はね、元は僕らと同じ人なんだ。死して成仏出来なかった魂が周りに蔓延る負の感情や空気を吸って邪に堕ちる。邪魂になると生者の魂を欲しがる様になっちゃうんだ。それが君が見たものの正体だよ」


元々は人間。


この事実はあまりにも残酷だ。高校生である瑛晴でも、男が改めて話し出した理由を感じ取れるものだった。


「…何となくだけど理解した。でもよ、悪霊や怨霊と何が違うんだ?おんなじに聞こえるんだけど」


「んんー!鋭いっ!良い質問だねぇ瑛晴君!」


今までの厳かな空気から一変、某お笑い芸人かの如くビシッと指を指す男。


「それはねぇ…」

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