猫殺しに魔法は何回必要か?
バーニー
第一章 二酸化炭素製造機
第1話
ああ、そう言えば最近、先輩からの連絡が無いな。
夏休みを直前に控えた、二時限目の経済学の授業の後、食堂に続く廊下を歩いていた僕は、ふとそう思った。
「どうしたんですか? 水無瀬さん」
突然、天井を見上げ、「あ…」と言いたげな顔をする僕を、青村聖来さんが覗き込む。
「何かを思い立ったような顔をしちゃって」
くりっとした目に、低い鼻、瑞々しい唇をし、頬の輪郭はふっくらとしている。小動物のような愛くるしさを持った彼女は、清涼感のある青いワンピースに身を包み、肩に授業用のバッグを抱えたまま首を傾げた。
ふわっと、ミディアムの茶髪が揺れて、甘ったるい香水の香りが鼻を掠める。
「ああ、いや」
その煌めくような雰囲気に、僕は気圧されながら笑った。
「最近、先輩から連絡が来てないなあ…って」
「先輩?」
ぴんと来ないような顔をする青村さん。次の瞬間には「ああ!」と手を叩いた。
「東雲さん…でしたっけ? あの、お金にだらしない」
「ああ、まあ、そうだね」
人が行き交う廊下で、「お金にだらしない」なんて言葉が発せられるのは、なんだか恥ずかしかったが、先輩という人間を表すには実に的確だった。
僕は頭を掻きながら言った。
「この前話したのが三日前だから、そろそろ連絡が来ても良いと思うんだけど…」
「話したって…」
青村さんは呆れたような顔をした。
「どうせ、お金を貸したんでしょう? もうあの人と会うのやめたらどうですか?」
「いや、まあ」
周りを気にしながら頷く僕に、青村さんは白い肩を竦め、大げさにため息をついた。
「東雲さんの話は有名ですよ。お金に困ってるからって、いろいろな人に無心しているそうじゃないですか。しかも、その原因はギャンブル。そんな人にお金なんて貸しちゃだめですよ」
「いやまあ、そうなんだけど…」
またもや、僕は歯切れの悪い返事をした。
「なんだかんだ、世話になってる人だし、数千円程度なら貸してあげようかなあ…って。僕、あんまり趣味が無いから、バイト代が結構余るんだよな。奨学金だって、給付型だし」
「だったら貯めたらいいじゃないですか」
青村さんの口から放たれた正論が、僕の胸に突き刺さった。
「これから就職しなきゃならないんだから、貯めたり、資格を取ったり…。いくらお世話になってる先輩だからって、お金の部分はしっかりしないと。それでも無心してくるようだったら、縁を切った方が良いですね」
「いや、うん、まあ…」
そんなことを話していると、ズボンに入れていたスマホが震えた。
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