第3話 戦鎚聖騎士、ゴブリンの群れを討伐する
「ちょっと騎士さん、あたし等の出番奪うつもりかい?」
「馬車の中で引きこもってて退屈だったんだ。少しぐらい運動したっていいだろ?」
「取れる素材をこっちに寄こしてくれるならね」
「要らね。好きにしてくれ」
警護中の女弓使いが獲物を横取りされちゃたまらないって感じに顔をしかめてきた。というのも、魔物は人々の生活を脅かす害悪な存在。総じて討伐の対象であり、耳とかを持って帰ると懸賞金が出るわけだ。他にも特定の魔物は皮や肉が高い金で取引されたりもする。とどのつまり、獲物の横取りはおまんまの食い上げに繋がるってわけだ。
一方の聖騎士、基本的には給料は定額。そりゃ一定の成果を出せば特別賞与とかもあるらしいが、どんだけ張り切って魔物を狩ったところでお金がっぽがっぽとはいかねえ。義務なんだから当然って扱いなんだな。
「さ、て。で、こんな交通量がそれなりにある街道で襲ってくる間抜けな魔物はどこにいるんだ?」
「ほら、あそこさ」
「……なんだ、ゴブリンかよ」
「そりゃあ騎士さんにとっちゃあ白けるかもしれないけどさ」
ゴブリン。この世界において広域に生息する魔物。
一体一体の力は大した事ない。成人前の男子がちょいと訓練を積んで油断しなきゃ倒せる程度だ。妙に知恵があって道具を使ったり徒党を組んだりで厄介な一面もあるにはあるんだが、初心者の冒険者向けの相手だわな。
ゴブリンと一口に言うのは俺達を人間って一括りするのと同じで、中には熟練の騎士でも苦戦する種類もいるにはいる。だが、今視界に入る個体はいずれも雑魚ばかり。扇動するゴブリンキャップがちょっと混じってるぐらいか。
「俺はお前さん達が取りこぼしてこっち向かってきた奴を処理する」
「そうかい。なら出番は無いかもね!」
戦闘が開始された。
哨戒してた男戦士が森から飛び出したゴブリン達を斬り伏せ、男戦士に襲いかかるゴブリンを女弓使いが射抜いた。中々の連携で、男戦士は特に攻撃を受けることなくゴブリン共を蹴散らしていく。
男戦士から少し離れた位置の木陰から飛び出してきたゴブリンに炎が襲いかかる。三人目の冒険者である男魔法使いが火属性魔法を放ったようだ。油に火を付けたみたいにものすごい勢いで燃え上がって崩れ落ちる。
「本当に俺の出番ねえなコレ」
と、暇を持て余しかけたんだが、俺はとっさに女弓使いの前に盾を掲げた。直後、甲高い音と衝撃が連続して盾に響く。俺は腰にぶら下げた投げナイフを投擲。森の中へ突っ切っていき、離れた所からの断末魔を聞き届けた。
「アーチャーまでいたのか……! 助かったよ」
「礼なら戦いが終わってからにしてくれ……!」
女弓使いが攻撃を止めたせいで森を抜けて襲ってくるゴブリン共の数が多くなった。男戦士の防衛を抜けてこっちまで向かってくるのもいるな。棍棒持ち三匹、小刀持ち二匹。楽勝だな。
「じゃあ、ちっと運動しますかね」
俺は肉薄してくるゴブリン共の攻撃が届く前に一気に戦鎚を振り抜いた。まとめて二匹ぐらいが血と臓物を撒き散らしつつ身体をひしゃげさせた。
続けて棍棒を振り下ろしてくる奴に向けて盾で体当たりをお見舞い。体重と速度差で相手の方が面白いぐらいにぶっ飛んでいく。で、すれ違いざまに小刀持った個体の頭に戦鎚をお見舞い。頭が潰れた死体がその場に崩れ落ちた。
小刀持ちを一匹始末した隙をついてか、もう一体の小刀持ちが俺の腹めがけて突きを繰り出してきやがった。ま、聖騎士の全身鎧に身を包んでるんで、ちょいと移動したら刀は鎧を滑っていくだけ。無防備になった腹に蹴りをお見舞いしてやった。
「大人しく死んどけ!」
で、戦鎚を振り下ろして粉砕。
体当たりで怯ませた棍棒持ちを片付けようと思ったんだが、既に女弓使いが射殺してた。
襲撃してきたゴブリンが次々と返り討ちにあってくせいか、ゴブリンキャップは不利を悟ったらしい。俺達人間には理解不能な言語を発した。すると一目散にゴブリン共は森の奥へと逃げ出していった。
「追うか?」
「いや、止めとこう。後でギルドに報告して巣穴を駆除してもらうとして、俺達は依頼に専念すべきだ」
「じゃ、そうすっか」
男戦士と男魔法使いが意見を交わし、追撃は断念。戦闘終了と相成った。
そうなったら次にするのは後始末。
街道に死体を放置してたら肉食の魔物を呼び寄せちまう。飛び散った血とか肉片はどうしようもねえにしろ、死体は少し森に入ったところで埋めるか焼くかするのが一般常識だ。今回はそれなりに火力を出せる魔法使いが同行してるので、後者が選ばれた。
一般のゴブリン共は肉は不味いし皮は使えねーしで、素材としては何の役にもたちゃしねえ。討伐達成の証拠として耳を削いでオシマイだ。後は死体を処理して片付けは終了。旅が再開される。
「ニッコロさん、よく頑張りましたね」
暇つぶしを終えて馬車に戻った俺をミカエラが出迎えた。彼女の願いを叶えてやったはずなんだが、どうもあまり満足してない様子だった。
「不満そうだな。どうした?」
「ゴブリン程度じゃあニッコロさんの頑張りが見れませんでしたね。これでは学院での実地訓練の方がマシですよ」
「聖都とそんな離れちゃいない地域でそんな期待すんなって」
「それもそうですね」
そもそも教国連合内の主な街道は物流と人の往来が滞らないよう、定期的に魔物の駆除が行われてる。こうして冒険者数名でも対処できる程度の襲撃はあるにせよ、それこそ英雄とか呼ばれるような凄腕の連中が必要な災厄級の魔物がそうホイホイ出てきてたまるか。
「それだけ今が平和だってことだ。旅はのんびり行こうぜ」
「むう、次こそはニッコロさんが大活躍するような魔物が出てきてくれませんかね」
「聖女のくせになんてことを願うんだって」
こんな感じに道中では合計三回ほど魔物の襲撃にあった。森でのゴブリン、草原でのアルミラージ、あとブラッククロウとも遭遇したな。
「アルミラージはあまり攻撃するんじゃないよ! 群れが通り過ぎるまで我慢だ!」
「げ、面倒くせえ……!」
草原で遭遇したアルミラージの群れはたまたまこっちとかち合っただけらしく、馬車に突撃してくるような間抜けな個体以外はいなす形で対処した。下手に倒すと群れ全体が復讐してくるらしく、とにかく大人しく去ってくまで耐えるのが大変だったな。
「何でブラッククロウがこっち襲ってくるんだ……?」
「おそらく馬車に積んでる干し肉が原因じゃないかい?」
荒野で現れたブラッククロウの群れはすばしっこいせいで男戦士は役に立たず、主に男魔法使いの広範囲魔法で対処したな。女弓使いが弓矢で援護したぐらいで、俺は突撃してきた個体から盾でかばったぐらいか。
「むう、今回もニッコロさんの出番が少なかったです」
「いいことじゃないか。無いに越したことはねえよ」
「それに余も暇でした。怪我人が出てくれてたら張り切ったのですが」
「それだけ冒険者達が護衛として優秀ってことだろ。高い金出したかいがあったな」
うちの聖女様が不満そうだったんだが、結局終着駅まで彼女の期待に答えられるような展開はありませんでしたとさ。まあそんな可愛く頬を膨らませんなって。後で何か奢ってやるからよ。
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