③-1 オーク営巣地.txt
夢のような一夜が空け、窓から差し込む朝日に目を開くと、私の横に寝ていたのはクリスティン様でした。
「ええっ!? なぜクリスティン様が!?」
「…………んっ、おお、もう朝か。うむっ、少し私も疲れてしまってな。ベッドを借りたぞ」
「は、はあ……」
はて、クリスティン様はなぜ裸なのでしょう。
私は疑問を抱きますが、それよりもクリスティン様の美しい裸体に目が離せません。
剣を自在に振るう強靭さと女性らしいしなやかさをその身に兼ね備えた騎士様は、誇るように大きく伸びをしながら言いました。
「それとゼッツリー様は早くに出ていかれた。今日は郊外で視察があるそうでな。我々にも後を追ってくるようにとのことだ」
「郊外に……?」
私たちは身支度を整えると、ホテルの外に用意されていた馬車に乗りこみました。
都会の街並みが、木々が生い茂った馴染みのある景色に変わり、連れてこられたのは領都の郊外。森の一角を切り開いた地でした。
敷地の半分は木の柵で囲われ、平屋の建物がいくつも並んでいます。
この場所が何なのか、クリスティン様の方を向けば意外な言葉が返ってきました。
「ここはオークの営巣地だ」
「ええっ!?」
オークというと女性を苗床みたいにして繁殖するという、嫌らしい生態を持った私たち生贄となった者の天敵とも言えるモンスターです。
「おっとすまない、脅かしてしまったか。安心してくれ、営巣地だったのは昔の話だ。ここに巣くっていたオークは私が片付けたからな」
「クリスティン様が?」
「ふふっ、今の私はオークハンターとして名を馳せているのだぞ。そもそもキミの村に行ったのもあの周辺のオークを探し出して根絶やしにするつもりだったのだからな」
「オークを根絶やしになどできるのですか?」
オークは私たち村の人間を害するモンスターの中では一番の脅威とされています。ゴブリンや狼ならば村の男の人でもなんとか対抗できても、オークには勝つことはできません。万一にも女がさらわれてしまえばオークはさらに数を増やしてしまいます。
しかしその姿が確認されれば近隣の村々で協力して皆で討伐に当たることが取り決められています。冒険者ギルドも腕利きを手配してくれます。
数で勝てる内に全力で対処することでこれまでその被害を抑えられてきたのです。
それでも決して根絶やしにすることはできず、大規模な討伐がされても、数年すればまたどこかの村で被害が発生してしまう、厄介なモンスターなのです。
「根絶やしにできるか? ああ、できるさ。奴らは凶暴ななりの割に臆病なたちであって、こちらが本腰を入れると巧妙に姿を隠すから殲滅は無理だと言われていたのは確かだ。
だがゼッツリー様は自ら森に入ってオークの生態を調べ尽くしたのだ。奴らの普段の食べ物からいつ寝るのかといった行動パターン。奴らの鳴き声の意味まで解析してみせたのだ。
今の我々はオークの営巣地を見ればオークの総数を正確に把握するし、幼体一匹であろうとも逃がすことはないのだよ」
そんな会話をしながら広場を進めば、平屋の建物に囲まれた所でゼッツリー様に迎えられました。
「おお、来たか二人とも」
作業着というのでしょうか、大貴族とは思えない地味で使い込まれた服装をされています。
周囲にいる何人もの男の人たちも同じ格好です。
ゼッツリー様は衣服の汚れをはたき落としながら言いました。
「ちょうど作業がひと段落したところでな、早めの昼食にするところだ。二人も付き合ってくれ」
ゼッツリー様が他の作業員の方たちを動かし、程なくしてBBQという昼食が始まりました。燃える木炭の上に設置された金網で、野菜やお肉を焼いて、タレを付けて食べるというのです。
トングというカチカチ音をさせる道具をたくみに操ってゼッツリー様が食材を加熱していきます。
焼け具合を確認しながら適宜ひっくり返して、火が通ったら皿に取って皆に手渡します。
慌てて私がやりますと申し出ましたが、笑ってこれは
周囲の人々も慣れているのか、押し抱くようにお皿を受け取りながらも、侯爵様の給仕に動じてはいません。
私も一皿いだだきます。
「おいしいっ!?」
BBQというのは昨日のホテルでの素敵なディナーコースとは比べ物にならない野趣あふれるお料理ですが、またも私は瞬く間にお皿を空にしてしまいます。
ただ焼いただけの玉ねぎに特製ソースがかかれば、それだけで上等なお料理に変わってしまうのです
コーンという昨夜のおいしいスープの元になった野菜も、素焼きにすればつぶつふした食感から楽しめます。
「あれ、これはもしかして昨日のお肉でしょうか」
主菜のお肉は、ホテルで夢中でかきこんだ料理の一つに覚えがあるものでした。
「ああ、それは―――」
そこへ突然恐ろしい咆哮が聞こえてきました。
「オオオオオオオオォ!!!!」
ひっ、と身体がこわばりました。
こぼれそうになったお皿をゼッツリー様がさっとすくいあげます。
聞こえてきたのは恐ろしいモンスターの叫びです。かつて聞いたことのあるおぞましい響きが。
「もしかしてオークが!?」
明らかにすぐそばからの音です。人を喰らい、私たち女性を繁殖の道具に使う汚らわしいモンスターが近くにいるというのです。
思わずゼッツリー様にすがりついてしまいましたが、そんな私に侯爵様はそっと肩を抱き寄せ優しい美声で落ち着かせてくれます。
「恐れることはない。やつらの一部をここに捕らえているが、もう二度と悪さはできないようにしているから」
そして私は手を引かれ、一番大きな建物に連れて行かれました。
明り取りの窓から中を覗くように促され、恐る恐る顔を近づければ。
「ひゃあ! オークがっ! あれ、でも何か様子が…………」
中にいたのは巨大なオークが数体。
ですがその全部が鎖に繋がれていたのです。決して逃がしはしないとばかりに両手足には鎖と金属の輪が繋がれ、太い柱に結ばれています。
その光景には安心しましたが、不思議なのはその周囲に多くのイノシシがいたことです。
牙が小さいということはメスのイノシシなのでしょうが、イノシシからしても捕食者であるはずの恐ろしいオークの周囲で群れ、鼻先でつついたりと距離が近いのです。
「ええっ!?」
何ということでしょう。よく見ればイノシシの中の数体はオークの股間にお尻を当ててキュイキュイと声を上げているのです。
「交尾!?」
鹿や犬の交尾は見たことがありますが、オークとイノシシがその体勢で繋がっているのです。
「えっ、どういうことなんでしょう?」
オークはメスのいない種族です。だから私たち人の女性を苗床に使おうとするのですが、イノシシをも相手にするのでしょうか? それでイノシシからオークが生まれてしまうのならば恐ろしいことになってしまうのでは?
「大丈夫だレイテ。イノシシから生まれるのはイノシシとオークの合いの子だ。決して人を襲うモンスターなどじゃないんだ」
そして私は今度は隣の建物に連れて行かれます。
そこには初めて見る生き物がいました。
体型はイノシシですが、その肌は毛が薄く、ピンクの地肌を晒し、みっちりとした肉に覆われています。
大きな鼻をブヒブヒと鳴らし、元気に餌を食べているのです。
まさにイノシシとオークの特徴を合わせた、意外と愛らしささえ感じさせる動物だったのです。
「どうだ、これはオークとイノシシをかけ合わせて誕生した
「オークが人以外で繁殖できるなんて知りませんでした」
「いや普通は出来ない。と言うよりしない、だな。だがオークに種族の壁を超える繁殖力があるのは確かなわけだ。研究の結果、奴らとイノシシが種として近く、交配可能なことは確信していたから、後はそうさせるだけの環境を整えるだけの問題だった。奴らは生意気にも人間以外は歯牙にかけようとしなかったからな。オークにだけ効く興奮剤を開発できたのは、つい最近のことだ」
もう一度。最初の建物に戻って恐る恐る窓を覗き込めば、凶暴なオークが実はだらだらとよだれを垂らし絶望に目の光を失った顔をしているのが分かります。
「オオオオオオオオォ!!!!」
またも響く咆哮。でも今はこれは、囚われの身で薬漬けにされて繁殖の道具に成り下がった、種族としての尊厳を失った己を嘆く声なのだと理解できました。
いいざまぁです。
私は安心してBBQの続きを楽しみます。
オーク肉のおいしさをこれでもかとばかりに堪能しました。
食後のデザートとしていただいたマシュマロという甘いお菓子を、これは自分で焼かせてもらいながら、私は大事なことをゼッツリー様に確認します。
「あの、ゼッツリー様。ここはオークの繁殖牧場なのですよね。そしてゼッツリー様がこの牧場の主ということでよろしいですか?」
ということは、その……つまり。
「そうだ、ここはオーク牧場。私はここの
「まあ」
「さあ、おいで」
そして食事を終えた私はゼッツリー様に導かれて牧場の真ん中にあるロッジというおしゃれな丸太小屋の中に入りました。
そしてそこでゼッツリー様が作業着を脱ぐお手伝いを。
「まあっ!?」
昼の光の下で見るゼッツリー様のオークの凶暴なこと。
「さあ、それでは新たなギャラリーの枠を開こうじゃないか」
「あっ、待ってください! ああっ、オークキング様、どうかお許しを――――」
私はそのまま恐るべきモンスターに蹂躙されてしまったのです。
か弱い女である私にはオークに抗うことなどできはしないのです。
「レイテ嬢、助けに来たぞ!」
「ええっ!?」
「またかよお前……」
途中で助けにきた女騎士も加わって。
私たちはオークの肉体のおいしさをこれでもかとばかりに堪能しました。
CG回収率
レイテ 25%
クリスティン 301%
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