同人ゲーム(R18)の悪徳貴族に転生したのでジャンルを純愛に変更しました ※なお原作は大好評につき新ヒロイン追加でシリーズ化してる模様

笠本

①-1 スライム衣服溶解イベント.txt

「嫌っ! だれか、助けて!」


 青い葉が生い茂る森の中、モンスターに捕らわれた私の声に答えてくれる人は誰もいません。

 私は動かない身体で必死にもがくけど、全身を覆うぬるりとした感触から抜け出せません。

 

「んっ、やだっ!?」

 かろうじて覆われれていなかった顔にぺたぺたと粘液が這いあがってきました。


 私を捕らえているのはスライム――――最弱のモンスター。

 その粘着質な身体に取り込んだ獲物をゆっくりと溶かして捕食する魔物。


 動きは遅くて全身は子犬程度のサイズだから、普段はカエルや虫やあるいは他の動物の食べ残した獲物を狙うような、子供にでも排除できるモンスターです。


 ですがそんなスライムも生息場所が良ければ人よりも大きくなる程に成長することがあります。

 おばあちゃんに木苺のジャムをプレゼントしたくて、森の中を進んでいた私が捕まったのもその一体。

 窪地で足を滑らせて木の葉の層に転がったと思ったら、その下に大きなスライムが隠れていたのです。私の全身を飲み込むほどのサイズの。


 きっとこの場所でおマヌケな獲物を捕らえ続けてここまで大きくなったのでしょう。

 一度半身が飲み込まれてしまったら、スライムが持つ微弱な麻痺毒によって私はもう十数分もこの粘液の檻の中に閉じ込められているのです。


 それでもここは森の浅いところです。

 狩人や行商人や冒険者ごっこの子供たちか。きっとその内に誰かが通りがかって助けてはくれるでしょう。


「やだっ! こんなの!」


 だけど、だけどこのスライムはのです。


 ブラウスもスカートも穴だらけになって小さな破片が粘液の中に散っています。下着も半分くらい溶かされ千切れて、私の肌があらわになっているのです。


 肌を焼かれたのなら根気よく薬草を塗っていればいつか治るでしょう。抜け出すのが遅れて手足の先が溶かされたのなら、義足をつけて生きていけます。

 でも、でも、服を溶かされたら。その子の人生は終わってしまいます。


「もう……ダメっ……」

 私が全てを諦めようとしたときです。


「キミ、大丈夫か! いま助けるぞ!」

 草をかき分けて飛び出してきた銀髪の女騎士が剣を抜いて駆け寄ってきました。 

 


       ****



 現れた騎士様は剣の一突きだけでスライムの小さな核を潰すと、形を失い地面に広がった粘液の中から私を抱き上げ、村まで運んでくれました。


 自宅で私は身体を洗い、服を着替えると家族と共に騎士様に向かいます。

「レイテと申します。騎士様、助けていただきありがとうございます」


「うむ、毒は抜けたようだなレイテ嬢。我が名はクリスティン。アクドック家の騎士団長である。なに、領民を助けるのは騎士の務めであるからな」


 この地をおさめるアクドック侯爵家。その騎士だというクリスティン様は領都からはるばるこんな田舎まで、モンスターの駆除任務で訪れたのだと言います。


「クリスティン様、娘を……ありがとうございます」

 村長である私の父は騎士様に感謝を口にしますが、その表情は苦痛に満ちています。


 隣の母は顔を覆い泣いています。

 祖母が私の肩を抱き寄せて嘆きます。

「こんな家族思いの良い子が…………ああ、神さま、あんまりでございます」


 例えスライムから助け出されても、私の人生は終わってしまったのだと全員が理解しているのです。


 父がこぼします。

「騎士様、もう娘は…………運命から逃れられないのでしょうか」


「それがこの世界のルールであるからな」


 騎士様から改めて残酷な現実が口にされます。


 そうです。この世界ではときおりスライムに捕獲されて衣服だけを溶かされる者がでるのです。

 普通のスライムは生き物の肉しか溶かせません。人がスライムに捕食され、骨だけになったところで服はそのまま残っているのです。

 ですが逆に衣服だけを溶かすスライムがいるのです。いえ、正確には捕食しなければ成長できないのですから、普段は肉を吸収しているのに、あるときだけ服だけを溶かせるようになったスライムが。


 そしてその被害に合うのは決まって女性です。

 木綿の服だろうと、毛皮のコートであろうと。いえ、たとえ鎧甲冑であろうと溶かされ素肌が晒されてしまいます。


 そうなった女性はある意味、命は助かります。傷一つ負うことはありません。

 でもその後は決まって悲惨な末路なのです。


 オークの苗床にされたり、山賊の慰みものにされたり。女としての尊厳を奪われ死んだほうがましという目にあうのです。


 必ず、決まってそうなるのです。


 例えオークや山賊などいない街中にこもっていても不思議な力が働いて辿る末路は同じです。

 私みたいな村娘であっても、名のしれた冒険者や魔道士であっても、あるいは騎士に守られた王家の姫君であろうとも。


 スライムに服を溶かされた女性はやがて全てを奪われる。まるで捧げられた生贄のように。


 それがこの世界『ファンタジーセカイデオンナノコガエッチナメニアッチャウアールピージー』の掟なのです。


「なんで……私なんかが……」

 ああ、なんで私なのでしょう。

 生贄になるのは決まって美しい女性のみだと言われています。

 私は緑髪で黒縁メガネの地味な子なのに。胸だってFカップのささやかなサイズです。


 沈み込んだ私に、クリスティン様は言いました。

「レイテ嬢、どうだろうか。キミをわが主、ゼッツリー様の元に連れていきたいのだが。ゼッツリー様ならキミを助けてくれるはずだ」


「ゼッツリー侯爵様ならば娘の生贄の運命さだめを覆せるのですか!?」


「いや、それ自体は無理だ。だがゼッツリー様ならば決して御息女を悪いようにはせぬよ」


「でも……」

 私の運命が決まってしまったというのなら。私は残された時間を愛する家族と共に過ごしたいと思ったのですが。


「いや、レイテ。ここはクリスティン様とゼッツリー様を信じよう。ご領主がゼッツリー様に代替わりしてこの村もずっと暮らしやすくなった。税金だって安くなったし、こんなところにまでこうして騎士団が見回りにきてくれるようになったのだ。ご領主様のお慈悲にすがろう」


「……分かりました。クリスティン様、よろしくお願い致します」


「うむ、任された」


 こうして私はゼッツリー様のいる領都に向かうことになったのです。



 CG回収率……5%

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2024年11月30日 20:14

同人ゲーム(R18)の悪徳貴族に転生したのでジャンルを純愛に変更しました ※なお原作は大好評につき新ヒロイン追加でシリーズ化してる模様 笠本 @kasamoto

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