ライトノベルのヒロインに好かれております。
楠木祐
1章 ライトノベルのヒロイン
第1話
ある日、担々麺のカップ麺を買いにコンビニに行くとレジでアルバイトぽい女性店員と見覚えのある学校の制服姿の長い金髪の女性客がトラブっていた。
「なんでお金が使えないのよ!」
「そう言われましても……」
文句を言う金髪女性と困る店員、面倒に巻き込まれたくなかったがレジが一台潰れるのは不便なので介入することにする。
「どうしたんですか?」
俺が聞くと店員は客の方にチラリと目をやる。促されて俺も客の顔を確認するとそこにはよく知った顔があった。と言っても、話したことは一度もない。話せるとも思っていなかった人物だからだ。
そこにはライトノベル『もしかして、俺のラブコメは間違っているのだろうか?』略称、『もしだろ』のヒロイン、有栖川有栖が立っていた。長い睫毛が際立たせる大きなクリっとした目、高い鼻、ピンク色の唇が雪のように白い肌に黄金比で配置されている。
俺は驚きを隠しつつ、有栖川有栖に尋ねる。
「何かあったのか?」
有栖川は俺に「誰だ、こいつ?」みたいな目を向けながらもしぶしぶ口を開く。
「……お金が、使えないのよ」
「は?」
俺は有栖川が握っていたお札に視線を向ける。レジで表示されている額よりもお札は値段としては上回っている。ただ、使えないとなると考えられるのは……。
「その金、借りるぞ」
「ちょっと!」
俺は有栖川の制止も聞かず、ヒョイと千円札を奪い、天に翳した。
やはり、千円札の中心には何も写らなかった。
俺は有栖川に耳打ちする。
「これ、偽札だぞ」
「え、なんで!」
それは多分、彼女がこの世界の住人ではないからだろう。
とても似たお札でもライトノベルの世界で使われている現金は俺の住む世界では使えないようだ。
「ど、どうしよう」
焦り始める有栖川、確かに偽札を使うのは犯罪行為だ。しかし、彼女は悪意があってそうしていたのではない。不可抗力だ。
「使えないなら仕方ない。俺が払う」
俺の財布にはそれなりに金があるので支払っても痛くない。それよりもこの世界の住人でもない少女を犯罪者にする方が心が痛い。
「え、それは悪いよ」
遠慮する有栖川に俺は首を横に振る。
「偽札を使うのは犯罪だ。悪気がなかったとしてもな」
「……何で」
そう言って有栖川は自分の持つ千円札を呆然として見つめる。
その間に俺は会計を済ませる。
店員には俺から謝罪をして丸く収めることができた。俺は有栖川と一緒にコンビニの外に出る。
「聞きたいことは山ほどあるが、とりあえず飯だ。腹が減っては戦はできないからな」
買った担々麺も早く食べたいし。
有栖川は辺りを見回す。
「ここはどこなの? それに貴方は誰?」
小首を傾げる有栖川に俺は溜息を吐く。
「ここは四葉市で俺の名前は佐藤雄馬。高校二年生だ」
「私は有栖川有栖。ラフレシア高校の二年よ」
勿論、その情報は知っているし、頭の中でこの世界にラフレシア高校なんてねえよ、というツッコミをしながら俺は苦笑する。
「それで雄馬は」
「いきなり名前呼びかよ」
「いけないの?」
「いけなくはないが距離感を詰めるのが早いなと思って」
「良いじゃない、ただの名前なんだから。私のことも有栖と呼んで良いわよ」
「上から目線がムカつくから呼んでやらない」
「雄馬は面白いわね。アイツとは大違い」
有栖川がアイツと言った相手は『もしだろ』の主人公、佐々木兎のことだろう。確かに犬猿の仲だがこれからの学校生活で相思相愛になるはずだったのだが。
「そもそもなんで有栖川はこんなところにいるんだよ?」
「お腹が空いて、喉が渇いたからよ」
「コンビニに来た理由を聞いてるんじゃねえよ。この世界に来たことを聞いているんだ」
「日本に来たのはお父様の仕事の都合で」
「そうでもなくて!」
有栖川有栖は日本生まれではあるが、フランス人である父と日本人の母のハーフで帰国子女である。そんな情報はライトノベル1巻の1ページ目に書かれていた。
有栖川は口元に手を当ててクスッと笑って俺を見る。
「雄馬はおかしなことを聞くわね」
「俺は至極真っ当な質問をしているつもりだ」
伝わらないのなら仕方がない。
「とりあえず、俺の家に行くぞ」
「殿方の家に行くなんて、なんて破廉恥な!」
「バーカ、そんなつもりは一ミリもない」
「馬鹿とは何よ!」
「そういうラブコメは兎とやってくれ」
勢い良く噛み付いてくる有栖川を俺は軽くいなした。
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