16 友達はイケメン
朝早いうちに起きて出発のイメージだったのだが、起きた時点で昼近くって。
まあ、別に急いでいるわけではないしいいけど。
モグモグと食べているのはグレーピイという、ブドウのように粒が連なった果物。ただし一粒がスモモくらいある。味はマスカットのようにさわやかで美味しい。
このくらいの甘さならクロウも食べるかな?
「食べる?」
さっきリンゴはいらないって言ってたけど、誰かが見ている前で自分だけ食べるというのはどうにも落ち着かないものだ。
差し出すと『ああ、もらおう』と手に乗せた果実に顔を寄せてくる。
「ふふ」
なんかちょっと偉そうなのに食べてるのが果物なのが微笑ましい。
「食べたら出発しよう」
『ああ』
いくつも連なった果実を二人で食べきって、いくらか腹が膨れたところで家を収納して出発する。
今日は尻の下にバスタオルを敷かせてもらった。
恥ずかしながら事情を話したよ!
『昨日のうちに言えばよかろうに』
走りながらクツクツ笑われて顔に熱が上がる。
「デリケートな問題なんだよ!」
『今度からはちゃんと言え。・・・と言っても普通の人間には我の姿が見えぬから、外に出てからは我の背に乗っての移動は都合が悪いか』
「・・・そうだな」
俺だけが不自然に浮いて移動していたら常人の目には奇異に映るだろう。
神の森を出たら、自分の足で移動するしかないか。
でもそうなるとかなりスピードが落ちるよなー・・・。
「あーあ・・・空とか飛べたらいいんだけどなー・・・」
アニメみたいに、なんて呟いたら
『風魔法を使えば飛べるのではないか?』
我が走るよりは遅いであろうが、歩くよりは速いだろう。・・と何でもない事のように返された。
俺が、アニメの魔女っ娘のように飛べる、だと?
「・・・魔法って、万能過ぎないか」
『ハルカのレベルの高さなら出来るだろう。常人はおそらく無理であろうが』
「・・・やっぱ俺って非常識なんだな」
『まあ・・・与えられたのは神の力だからの。そこは諦めよ』
「・・・」
爺さん神さん・・・。
「人がいるところに出たら出来るだけ魔法は使わないでおくわ」
『その方が賢明であろうな』
そうと決まれば。
「ちょっと浮けるか試してみるから」
・・・・で。
神の森を出る直前に降ろしてもらってちょちょいと練習してみたら、出来たよ。
空気を身体の周りに纏わせるイメージで魔力を全身に流してみたら、ふわっと浮いた。
俺のイメージを具現化する魔法の力、凄くないか?
更に魔法で作った風を後方に向けて流すと、身体がスーッと前に進む。
「おお・・・」
『魔力を扱うのに慣れてきたのだろう。そのまま飛んで移動してみるか?』
「うーん・・・ちょっとゆっくり目から試していいか?最初からクロウのスピードは怖くて出せない」
『もちろん良いぞ。高さはそれで良いのか?
飛ぶなら木の上を飛んだ方が視界が開けて余計な魔力を消費しないで済むと思うが』
「それなあ・・・」
言われて、悩む。
「でも・・・落ちたらヤバいじゃん」
魔法を使い始めてからひと月ちょい、まだまだ魔力の扱いには慣れていない。
そんな中、今日の今日で実践しちゃって何事もなくいられるなんて思えるわけがない。
高い木の上を飛んで、何かの弾みで集中力を切らせてしまったらその瞬間真っ逆さまだ。
『我がいてハルカを落とすわけがなかろう』
「・・・」
なにそのイケメンな発言。
女の子ならキュンてしちゃうぞ?
っていうか、クロウってオスなのか?
クロウネルって・・・男の名前か?カタカナの名前ってわかんないな。
『ハルカ?』
「クロウって、オス?」
『なんだ突然。我が雄ではなにかあるのか』
「いや。カッコいいからオスなのかと思っただけだよ」
獣の形の神獣だからメスでも変わらないかもしれないけど、何となくオスで良かったと思う。
気兼ねなく話せる気がするし。
『そうか。美しいそなたに言われるのは悪くないものだ』
「うえぇ?」
クロウってば何言ってんの?
美しいとか、女じゃあるまいし俺にとっては誉め言葉ではないのですが。
『濁りの無い魂、その器に相応しい艶やかな黒髪、黒曜の瞳、完璧な左右対称の相貌、しなやかな肢体。どれをとっても美しいものだ』
「・・・」
まあ、黒いのは、認める。
真っ黒で、真っ直ぐ過ぎてオシャレに遊ばせることも出来ない髪。
黒が強過ぎてどこを見ているか分からないと女子にはちょっと怖がられた目。
おかげでこの年までロクに恋愛はしてこなかった。
モテ期など一度も来たことは無かったな。
かろうじて童貞だけは大学のゼミの先輩にもらって頂いたが、それもゼミの飲み会の帰りに酔っぱらって、お互いフリーだからとついうっかり、ハズミでというやつだ。
半年前、営業先で知り合った女の子と一瞬だけ付き合ったが「仕事優先でちっともかまってくれないし、ちょっとイメージと違った」とかよくわからない理由でひと月もしないうちに別れた。イメージってなんだ。どう思われてたんだ。
女ってよく分からんとふて寝したのを覚えている。
「美しいなんて、言われた事無いな」
友達と歩いていて、スカウトされたその友達のついでに「君もイイね!一緒に写真撮らせてくれない?」なんて揶揄われた事はあったけど、それきり何も無かったという事は本当についでだったという事だろう。別にモデルや芸能人になりたかったわけじゃないから気にしないが。
ちなみに調子のいい友達はそのままモデル事務所に所属してタレントになったらしいけど、元から雑誌やテレビを見る事があまりなかった俺は、大学卒業と同時に音信不通になった奴が今はどうしているか分からない。別にそれも今となってはどうでもいい事だ。
それより、このイケメンな神獣様の認識をどうにかしなければ。
「友達だからって贔屓目に見過ぎだよ」
自分の事は自分が一番分かってるぞ。
その自分的評価は、不細工とは言わないが普通。そんなところだ。
なのに。
『そなたはもう少し自分の価値を分かった方が良いと思うぞ?
その容姿も力もこの世界にふたつと無いものだ。外に出れば女も男もそなたに惹かれる』
大袈裟にクロウは言う。イヤイヤ、そんな事あるわけないし。
っていうかさ。今なんかサラッと言ったけど。
女も、オトコもって言ったよな?
え?それってまさか。
「この世界って、同性同士の恋愛も普通だったりするのか」
腐女子が大喜びしそうな設定なのか?
『結婚に性別による制限は無い国が多いな。』
そうなのか。BでLなカップルは普通の世界なのか・・・。
でもなあ。
「・・・女の子はまだしも、男は嫌だなあ」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
いつになったらスーパーダーリン様出てくるんだ。
作者が一番思っております。
どうかもう少しお付き合いくださいぃぃぃぃぃ・・・
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