第226話 1人場違いな人がいます!
生き返っちゃったね!
なになに?家が無くなっている?
また作るしかないよ、それは。
いやー何でもかんでもは僕には無理だね。
命あっての物種ってやつさ。
これから皆で頑張って復興してくれたまえ。
まずは命があるのに感謝してくれよな!
そう、感謝が必要なんだ。
信仰がね。
ラルフィードの使徒である僕でも全く歯が立たなかったんだから。
◆
荒野でパキッと音がした。
龍神のブレスで消え去った主人はどこへ行ったのか。
なんとなく死んだ訳では無いと思う。
確かに鱗に歯が立たなかったが、一生懸命やった。
もしかして使えないと思われて捨てられてしまったんだろうか。
そんなはずは無いと思いながらも疑いたくなるほどの時間、誰も通らないここに置き去りにされている。
涙を流したいが、出来ない。
今の自分は剣なのだから。
感情が大きく動いた時、パキっとなって子犬が現れた。
神獣の卵、ヤイシャの子供の誕生だ。
名前はリオン。
もう名付けは済んでいる。
しかしその名付け親は姿を消してしまった。
もしかしたら死んでしまったのかもしれない。
死体だとしても一目みたいとウロウロしているが見つからずに、もう何日も経った。
移動してしまったら、探しにきた主人がわからなくなってしまうのではないかと思って、毎日少し探しては、元の場所で丸くなって眠っていた。
卵だったころ、剣として一緒に戦えるのは楽しかった。
本来ならとっくに生まれてきても良かったのだが、神獣の発生に必要な感情の爆発が一度もなかった為に、しばらく剣や腕輪の姿のままだった。
可愛くもなんともない剣や腕輪の姿だったが、ラルフは毎日磨いていたし、色々話しかけたりもしていた。
一人旅の相棒として、キチンと接していたのだ。
危ない奴というわけではなく、神獣の卵だと聞いていたし、何となく意思があるのが伝わって来ていたのでそうしていたのだが、皮肉にもその愛情が、精神の安定を保ってしまって孵化が遅れた。
今のこの姿も、ラルフが犬っぽいヤイシャの子供だと想像していたのでこうなっている。
本来どんな獣でも良かったが、主人がそう思うなら、子犬として生きようと決めたのだ。
どんどんと悲しくなって来たリオンはある夜、遠吠えをした。
わんわんと響き渡るその声は空気を伝い、野を越え山を越えない辺りで自然と消えたが、山に届けば十分、獣の神の耳に届いた。
「どうした。
逸れたのか?我が子よ。」
子犬はぴすぴすと鼻を鳴らす。
「そうか、それが引き金となって、精神が発露したのだな。
そうかそうか。
しかしお前もわかるだろう?
ラルフは死んだ。
ここにい続けたって仕方がないのだ。」
子犬はぐるぐると牙を剥く。
「生きているだと?
そんなはずは…。
ラルフと我は加護で繋がっている。
それが消えたのだから、確実にこの世にいない。」
子犬は噛みついた。
親とはいえ、なんども死んだと言われると腹が立った。
ヤイシャは痛がる様子を見せずに、考えている様子だ。
「ふむ。
あんなに共にいたお前が言うのならそうなのかもな。
ならばなぜ加護がなくなった…?
死ぬか敵対しない限りそう簡単に無くなることはない。
そんな軽いものではないのだ。」
わうわうと子犬が鳴く。
「ははは。
そんなことはない。
人の身で神である我を超える魔力など…。
龍贄を行ったか?
いや、それでもまだ足りぬだろう。
…む?
そうか。
神聖な気配を持っていたものな。
お前の主人は、死んだ。
死んだが滅していないだけだ。
同格となったのだろうな、我と同じ神に。
加護などと言う庇護下に置く様な無礼な真似はもう出来ないという訳だ。」
子犬は尻尾を振りながらあぐあぐと鳴く。
「会いたいのか。
そうだよな。
ならば呼びかけよう。
お前の声ならラルフに届く。
我の声なら天に届く。
力の限り鳴け。
共に呼びかけよう、我が子よ。」
◆
遠くで響く我らが神の遠吠え。
それを聞いたカカシャは理解した。
我らの力が必要なのだと。
全然勘違いだし、そんな情報は無いのだけれど、伝言ゲームの様に山々を繋ぎ伝わって来たのは、ラルフ、呼びかける、来てくれ、その三つの単語だけだった。
なるほど、眷属の我らと友誼を交わした少年が困っているのだ。
当然我らも集おう。
そうして出発したワンコの集団は山々で別の群れを吸収しながらとんでもない数に膨れ上がった。
どこを目指しているのか。
カカシャは一つだけ心当たりがあった。
神と友が雄々しく描かれた教会に一度同行した事があるのだ。
あの時は格好良かった。
我が友が我が神の背に乗り、神々しい姿を晒したあの場所だ。
あのあと見つからない様に何度か行ってみたが、神と友の絵が増えていた。
あそこは友を讃える所に違いない。
あそこへ行けば何かわかるだろう。
ラルフを讃える為に建てられた教会には人が溢れかえっていた。
それもそのはずで、死んだはずの人が生き返り、神の子が助けてくれたと口々に言うのだから、大感謝である。
家族を助けてくれた感謝を伝えたい。
どうやって?
そういえばガナーの隣に神子の教会が建てられたばかりだったな、そこへ行こう。
そんなこんなで人が山ほどいる。
そこに現れた山ほどの犬。
超大規模ふれあい動物園と化したカオスな教会とその周りでは、何となく手持ち無沙汰で犬を撫でたり話しかける人が続出した。
カカシャの群れは友好的で人が嫌いではないのでそれも受け入れ、なんか知らないけど、ご飯をくれる人たちだと分かったので仲良くなっていた。
カカシャも群れの大きさにラルフを誇らしく思い、子犬達が人と遊んでるのを見て安らかな気持ちになっていた。
その教会の上空に白い龍が現れて、そこから3人の女性が降りて来た。
アンヌ、ジェシー、ウィメイラの聖女3人である。
そのすぐ後に、剣士を乗せた龍が降りて来て、3人を警護している。
アンヌの警護はブランド。
ジェシーの警護はシャルル。
ウィメイラの警護はモデリニ。
有名な聖騎士一家の父と2人の実子、それぞれ腕が立つ剣士達だ。
もう一体青い龍が降りてくる。
「俺は男は乗せない主義なんすけどねぇ、姫と王子に頼まれちゃったらやるしかないのよ。
ラルフには生き返して貰っちゃったしねぇ」
ぶつぶつと文句を言うスピラヴェラは必要な人員とラルフがピンポイントで生き返らせた。
人語を介す数少ない龍なのだ。
「文句を言うな。
お前みたいな軽薄な龍に孫を乗せられるか!
それにしても、人語を介す龍か。
表に出せば儲かりそうだな。」
「いやぁ、お爺さんになってからの空の旅は刺激的でしたねぇ。」
トランブレー枢機卿と教皇が降りて来た事で教会は大騒ぎだ。
「私たちが話をする訳にもねぇ。
トランブレー君、早く像を建てちゃって。
我が家のアイドルが待っているよ。」
「はっ。」
トランブレーが手を挙げると大きなラルフの像が立ち上がった。
そして聖女達が居る台座も徐々に高くなって行く。
「うわぁ、私高い所ダメなんだよなぁ、お酒飲んでいいかな。」
「ダメ。」
「なんでお酒?」
この場に集まったラルフが助けてくれたと知っている人達に、ラルフがそう伝えた訳ではない。
誰がやったのか。
当然死霊のアイドル、ティナである。
死んだ魂を集めて、ラルフへの恩を刷り込んだ後、この教会へ向かう様に指示したのだ。
ここに集めて、現世のアイドル達にラルフを布教してもらうために。
そうして、集め、生き返し、集め、懐柔し、祈らせるサイクルが出来上がった。
各地では各々像が立って来ており、同じ光景が広がっている。
その後各地へ散って各々旗印として立って廻る3聖女は後に転生神ラルフの女神として名前が残る事になる。
物語ではロマンチックでドラマチックな出会いやエピソードが盛られ、ラブロマンス演劇の題材となるのだが、それをラルフはこう評している。
いや、ウィメイラさんは違うでしょ、と。
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