第218話 レットイットビー願望


さぁ、召しませ召しませ我が神よ!


そんな気持ちで目を瞑っても視界は白くならない。

…これはスルー案件とみなされたようだね。


くそぅ、ピリルルがここに居たらなんらかのアドバイスをくれるかも知れないのに!


「なんでピリルル?

私がなんとかしてあげるってば。


有耶無耶にしたらいいんでしょ?

誰も傷つかないように。」


そう…なんだけど…。

ティナのことは信頼はしてるけど、信用はしてない。


「ティナよ、ラルフは困っているんじゃないか?

我が身に置き換えてみると、20歳にも満たない貴族でもなんでもないのに、ポコポコと婚約だの結婚だの言われても受け入れられないだろう。


私もラルフも多少立場はあるようになったが、平民なのだ。

兄が偉かろうと、神様に目をかけていただこうと、ラルフはラルフなのだから、そういうのは自分で自信や覚悟をもって、直接相手に乞うのが当然だという心持ちだ。


それを周りが囃し立てるのは、誰のためにもならないだろう。


お前がラルフを可愛がっているのも、アンヌやリリーディアがラルフを気に入っているのも分かっているが、それを重荷ではなく責任と喜びにすることはラルフにしか出来ないのだよ?」


お父さん!

いいこと言うじゃない!


「パパは黙ってて。」


あっ…。

シュンとしないで…。

正論なのに…。


「馬鹿ですねぇ、サシュマジュクは。

私がアンヌをあてがったのも、ティナがラルフに嫁ごうと覚悟を決めたのも、別に自分の欲望だけの話ではありませんよ。


もっと言うと、アニキがジェシーをあてがおうとしてるのも、同じ理由です。


私の時は剣術の才能と神からの愛情。

ティナは恐らく薬などの利権。

アニキはラルフが教会入りする前に救い散らかした医療技術。


そのどれかでも子供が持っていて、後ろ盾も何もなければ面倒なことこの上無いものです。


金になる、信者がついてくる、名声が上がる。


金と発言力と人気があり、個人での暴力も暗殺などでは害せないような者を味方に出来れば、どこの王にでもなれますよ。


事実調べただけでも、学術都市の学長選挙では元門番のカルが学長になりました。

ロブ家分家程度の後ろ盾で選挙戦に勝つなど普通ならありえないでしょう?

その前は他国の門番ですよ?

兵士としてエリートだとしても、妻が偉いところの娘だとしても、公約が既得権益を犯す貴族の排除なんて、絶対勝てません。


婿殿とその友の龍王子ピリルルの威光はそれほどということです。

馬の骨を王にすることが出来る。


…例えば私やアニキやティナに、ラルフが教皇になりたいと相談されたとしましょう。

恐らく一年以内にはその立場に押し上げられるでしょうね。


…例えばラルフがどこかの国に腹を立てていると大声で叫ぶとしましょう。

薬や医療技術で救われた者、救われた者の家族、親戚、友人、隣人、それらが蜂起してその国は窮地に陥る。

その場にラルフがもし立ったならその国はなくなるかもしれない。


そういう存在になってしまっているのです。


いい加減魔法バカも婿殿も腹を括りなさい。


ラルフを縛らないように、ラルフの事を分かっているもので縛り付けなければならないのです。

悪い方向に向きそうなら、戻す人員で周りを固めないと、思いもよらない事件が起きます。


教皇様もアニキも悪ふざけや楽しそうだからで歓迎に2万人も集めません。」


シャルルさん…みんな悪ふざけ以外の何者でも無い旗を振ってたのに…。


「ちなみに、外で用意されているのは結婚式だけではありませんよ。

ラルフの名で教育と医療を纏める機関を作る発表をする予定です。


魔法バカになにも言ってないのは、魔法バカだからです。


ティナは知っていますよ。

有耶無耶にするというのも、結婚式の方でしょう?


それは確かに可能ですね。

よし!

模擬戦をしましょう!


救命にも腕力は必要です!

皆の前で殴り合って、素晴らしい試合を行えば納得してもらえるはずです!

シャシャシャ!」


…こいつ…。


「ダメよ!

エリフサーのお試し会と販売会をするんだから!


それから新薬や小児性魔毒症候群の治療方法とその道具も発表してそれも売っちゃうのよ!」


「…ティナ?」


「シャシャシャ!

それも良いですねぇ!

それならば、私とラルフの模擬戦の怪我も新たな薬で治る様を見せたら良いのでは?


ラルフの知識を元に作ったのでしょう?

傷薬を!」


「やるじゃない!

切り落とさない限りは治しちゃうんだから!


じゃあ、そういう事でいい?

ラルフ。」


コイツら…。


「アニキも呼んで来ましょう。

広告や煽動のプロですよ。


良い案も持っているでしょう!」


「良いわね!

あはは。」


「楽しくなってきましたね!

シャシャシャ!」


ごめん、お父さん、ちょっと抱きしめて。

温もりが欲しい。

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