寡黙で俺以外と友好関係を築こうとしない幼馴染に嫌われたいのに、全然嫌われない話

タカ 536号機

第1話 幼馴染に嫌われたい


 突然だが、俺こと野上のがみ 翔太しょうたには幼馴染がいる。そしてその名を桐山きりやま ひよりと言い、街を歩けばスカウトに声をかられるように俗に言う美少女である。

 性格は基本寡黙かもくでマイペース。そんなひよりと俺の関係値として家が隣で親同士が高校の頃の親友で大層仲良し。

 ひよりも俺のことを気に入っているらしく毎朝一緒に登校しては一緒に下校してをこの数年続けている。


 これだけ聞くと桐山 ひよりはM'sベスト幼馴染と言えるが、問題が1つ。


「ひより、そろそろクラスの友達出来たか?」

「...いらない」

「お前なぁ...」


 ひよりは頑なに俺以外と友好関係を築こうとしないのだ。これは別にひよりが嫌われているだとか、話しかけてくれる人がいないというわけではない。なんならひより談によると「囲まれて鬱陶しい」とのことらしいので、周りの人間は友達になりたがっているのだ。

 つまりひより本人が自らの意思でそれを拒否しているということだ。


 正直、ひよりが友達を作ろうとしないのは過去に色々あったこともあるので、仕方ない部分もあるし俺もその原因の一部だったりするのであまり強くは言えない。


 が、高校2年生にもなって尚も変わらず一切俺以外の友達を作ろうとしないひよりを見て、俺は危機感を覚えていた。今はまだいい。

 しかし、大学生や社会人ともなれば俺とひよりは恐らく離れ離れになるだろう。

 そうなった時、ひよりはどうなるのだろうか? 最近はそんなことばかり考えて俺はあまり眠れないでいた。

 その為、日頃から俺以外の友達を作れと言い聞かせているのだが...この有様である。


「...でも、クラス外には出来た」

「おぉ!? どんな奴なんだ? 名前はなんて?」


 そんなわけでどうしたもんかと俺が頭を抱えていると、ひよりがそんなことを言うので興奮して俺は気がつけば矢継ぎ早にそんな質問を投げつけていた。

 ついにひよりに友達が...!


「...うん、いい奴なの。ジョンソン 高木」

「誰だよ」


 初手からちょっとおかしかった。


「...心の友」

「学校でこんな名前の奴聞いたことないけどなぁ」

「...心の中の友」

「クラス外どころか3次元外じゃえねぇかっ」


 ただのイマジナリーフレンドだった。


「...次元差別良くない」

「そんな差別は聞いたことがない」

「...じゃあ、区別。次元区別」

「区別なら良くないか?」

「...良くない。そんな急にお別れとか無理に決まってる」

「それは区別じゃなくて告別だな」


 都合が悪いのか目を逸らしながらそんなことを言うひよりに対し俺はツッコミを入れる。


「...とーにかく、私の親友のニシタリアン 東野のことをこれ以上悪く言わないで」

「それは誰だ」


 初耳だ。


「...間違えた。えっと、なんだったっけ? タランチュラ 毒森だったけ?」

「ジョンソン 高木だよ。誰だよ、その名前からして毒系の能力者っぽい奴。というか、名前を忘れてる時点でやっぱり心の友でもなんでもなくて今適当に考えただけだろ」

「...バレた」


 俺の言葉にひよりはしまったと言わんばかりにぺろっと舌を出す。学校でひよりは「容姿はいいし可愛いけど、何を考えてるのか分からない」と言われがちだが実際は表情にこそ出ないものの、行動のあちこちに感情が見えて分かりやすいタイプなので話しやすかったりする。

 だからこそ、ひよりが自発的に話しかけたりするようになれば一気にこのことが伝わって、友達なんてあっという間に出来るというのにひよりはそれをしない。


「バレた、じゃなくていい加減に作ってくれよ」

「...だから、いらないって言ってる。翔太いるし」


 そして何度言ってもこう返されて終わってしまう。この一年ずっとこの調子だ。勿論こんな風に言って貰えて嬉しくないわけがない。

 でも、俺としてはどうしても心配の方が勝ってしまう。


「...それより暑いね」

「そうだな」


 気がつけばもうすぐ2年の夏だ。3年生になれば友達を作る機会は減るだろうから、もうあまり悠長にしていられる時間ではない。しかし、肝心のひより自身がこの調子では友達が出来るとは考えにくい。


 なんとかひよりに俺離れさせなければ。とはいえ、俺からひよりを拒否することは逆効果であることは前の失敗から学んでいる。

 あの時は酷かったなぁ。そもそも学校来なくなっちゃうし、なんとか部屋から出て来たかと思えば前以上にベタベタするようになっちゃったし。


 そんなわけで俺の方からひよりと距離を取ることは難しい。ならば、どうするか?


 答えは簡単なことで前回の失敗した時には分かっていたことだ。しかし、本音を言うならやりたくはなかった。所謂いわゆる奥の手というべきものだ。

 ただ、タイムリミットは刻一刻こくいっこくと迫っており現状を打破する手はこれしか思い浮かばないともなればいたし方ない。


 ひよりに嫌われる。


 俺は心の中でそう決意を固めるのだった。



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 次回「セクハラしてみた」

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