ロスト・ノスタルジー 〜思い出の墓守〜
浅葱
第1章 人間とは?
第1話『大災害』
〈現在、日本各地で大規模な異常気象が発生しています。外出の際は天候の変化に細心の注意を-〉
テレビを切る。最近はどこの局も同じ内容ばかりでつまらない。
「ちょっとお兄ちゃん、なんで切っちゃったの?私見てたのに」
「ユリ…同じような内容の番組、さっき見てただろ?電気の節約だよ」
こいつは僕の妹の守屋百合。僕の父の再婚相手の子だから血の繋がりはない。でも交通事故で父と義母が死んでからは互いに唯一の家族になっており、祖父の後を継いで僕が経営しているアンティークショップの手伝いをしてくれている。
「時計の手入れをしないとな…」
僕個人でやってる店だけど、祖父の築き上げたノウハウもあり、洋風でレトロな物から近所でもう使わなくなった古い物も買い取って販売する、質屋みたいなこともやっている。
店の隅に鎮座している大きな古時計。古すぎて売っても大した金にならなそうなこいつを置いている理由は、こいつが祖父の宝物だったからだ。死ぬ前日まで大事そうに磨いていたのを今でも覚えている。
時計を一通り磨き終えた時、店のドアが開いた。
「いらっしゃいませ。アンティークショップ、ゲッコーへようこそ…ってまたお前か」
「つれないですねぇ、店長。数少ない常連客ですよぉ?」
こいつは常連客。名前は知らんが見た目のインパクトが強い。サラサラの黒髪ロングヘアーと病的なまでに白い肌。身長はたぶん2メートルを超えているし、一年中ロングコート、マフラー、帽子、サングラスを着用している。街中で遭遇したらおそらく通報するだろう。
「今日はどうした?」
「いえ、特に何も?何か新しい物が仕入れられていないかを見にきたんですよぉ」
「ああ、それだったら最近の仕入れだったら…このオルゴールとかか?」
「お兄ちゃーん!私、ちょっとコンビニ行ってくるね!」
「ああ、分かった。気をつけて行ってこい」
「お嬢さん、お気をつけてぇ」
店には僕と常連客だけが取り残された。あいつは背が高いからか、身を屈めながら商品を見て、中を一通り回ると祖父の時計の前で立ち止まった。
「…いつ見ても、良い時計ですねぇ」
「何度も言っているが、そいつは売らんぞ?」
「ええもちろん、存じてますよぉ。本当に良い時計だと思っただけですってばぁ」
そういってにこにこした顔でこちらに振り向く。
「そうだ。店長さんに買い取って欲しいものがあったんでしたぁ」
珍しいな。こいつは来るたびに店内を物色し、偶に商品をいくつか購入していくが売却にきたことは一度もない。
「何を買い取って欲しいんだ?あまり曰く付きの物とかは遠慮したいんだが…」
「こちらですぅ」
顔から着けていたサングラスを外して渡してくる。大きめのサイズで、レンズは灰色に染められている。
「これを…?お前、ここ数年間ずっとこれ着けてただろ?いいのか?」
「えぇ、もちろん。買い取って欲しいというよりむしろぉ、これは貴方に差し上げてたいのですぅ」
胡散臭いことこの上ない。こいつの間延びした喋り方も相待って、詐欺師か何かのようだ。
「このサングラスは、とある全盲の老人が晩年まで愛用していたものなんですぅ。老人が亡くなった後にご家族が廃棄しようとしていらしたので、それを私が貰い受けましたぁ」
サングラスの来歴も怪しすぎる。なんでそんなもん貰ったんだ?
「このお店の店長である貴方なら分かるはずですよぉ。モノに込められたニンゲンの想いの強さ…あの時計なんて正に、でしょぉ?だ、か、らぁ…これは着けておいてくださいねぇ。貴方の役に立つはずですから」
「そこまで言うなら…貰っておこう」
「はいぃ」
常連客はにまっと満面の笑みを浮かべる。サングラスで隠れていたから分からなかったが、こいつかなりの美形だな。
サングラスをつけようとしたその時…特大の雷鳴が耳を劈き、地面が揺れる。
「…っ!なんだ!」
慌てて店の扉を開け、外へ飛び出す。
「なっ…⁈」
頭上を見上げると、空がまるでパソコンがバグった時のようにビビットカラーにゆらめいており、ホワイトノイズが空から大音量で降り注ぐ。ノイズに混じって稲光と豪雨が街を覆い、世界の終わりのような様相だった。
「コンビニ、ここから歩いて5分ほどでしょぉ?妹さん、助けに行かれてはいかがですかぁ?」
「っ!ユリ…!」
「サングラス。かけて行ってくださいねぇ。お兄さんとの、約束ですよぉ」
常連客の声を無視して駆け出す。
コンビニまでの道中、雷が落ちたであろう地面が焼けたような箇所が幾つか見える。
しかしその焼け跡はバグったようにゆらめいており、それどころか建物も所々亀裂が入ったところからそのゆらめきが確認できる。
明らかに異常だ。
コンビニが見えてきた。
「百合!」
「!お兄ちゃん!来ちゃダメ!」
「…!化け、物」
百合は小学生らしき子ども2人を庇って、頭が信号機で血色の悪い肌色をした人型の化け物と相対していた。
「お前こそ早く逃げるんだ!」
「ピッポッ、ピッポポポポポ」
異様な叫び声を放つ化け物が、百合に向けて振りかぶった腕を振り下ろそうとしている。
僕は反射的に走り出し、化け物に向かって飛びかかる。
「僕からこれ以上…家族を奪うな!」
「ピピッ、ポ、ポポポ」
化け物の爪が僕の背中に食い込むのが分かる。背中の皮膚が切り裂かれ、シャツに生暖かい血液が染みていく。
百合はもう、逃げられただろうか。
「おやおやぁ?サングラス、かけておいてくださいねって言ったじゃないですかぁ」
--ゴーン…ゴーン…
どこからか鐘の音が鳴り、化け物の動きが止まる。
「お前…なんでここに」
「なんでって、貴方を助けるためですよぉ。ほらサングラス、かけてくださいねぇ」
言われるがままにサングラスを着ける。
「ピポ?ピピッピッポ」
化け物が動き出したが、至近距離にいる僕を見つけられないようで戸惑ったように歩き回っている。
「これは…」
「そうですねぇ、そのサングラスに名前をつけるなら…『盲目の遺失物』ですかねぇ?ほら、今のうちに逃げますよぉ?」
⬛︎⬛︎⬛︎
「はぁ、はぁ、はぁ…っ痛…」
「大丈夫ですかぁ?背中の傷」
僕らはなんとか店まで逃げることに成功した。もちろん百合と、ついでに小学生も一緒に連れてきたが今は店の奥に隠れてもらっている。
「なんなんだ、あの化け物は…」
「アレは『怪異』。人の強すぎる思い…主には負の感情ですかねぇ。それらから生まれた存在ですよぉ」
「『怪異』だって?あの空の異常と言い、なんでそんな不可解な物がいきなり」
「いきなり、ではないですねぇ。確かにお空はかなりおかしいですが、少なくとも怪異はもっと前からいましたよぉ」
「はぁ?あんな化け物、今まで見たことも聞いたことも…」
「そりゃあそうでしょうねぇ。怪異は普通ならニンゲンに干渉する術を持ちませんからぁ…十中八九、ここ最近の変なお天気のせいでしょうねぇ」
たしかにここ最近の日本の天気はかなり、おかしかった。なんの前触れもなく豪雨になったり、かと思ったら急に晴れたり…
「困るでしょぉ?あーんな化け物が闊歩してちゃあ、満足にお外も出歩けない。店長さん、私と一緒にアイツら…倒しちゃいません?というよりむしろぉ、この世から綺麗さっぱり、全員葬っちゃいまいしょ!」
「は?」
何を行っているんだ、こいつは。
当然、僕にあんな化け物を倒す手段は無い。
「申し遅れましたぁ、私、『思い出の怪異』と申しますぅ。名前はありませんよぉ」
「は、はぁ…?」
こいつが?あの化け物と同じだったって言うのか?
「私なら、あの怪異を倒す術を知っています。このお店がなくなるのは悲しいですからねぇ…お手伝い、させてください」
「名前、無いのか?」
「ええ。なんだったら、貴方が付けてくれても良いんですよぉ?」
「じゃあ…『ジョーレン』」
「?」
「お前の名前は今日から『ジョーレン』だ」
「おやおや…これからも、このお店の常連客でいさせてくれるんですかぁ?嬉しいですねぇ。…そういえば、店長の名前を聞いたことありませんでしたねぇ」
「僕の名前か?…そういえば言ったことなかったっけな」
「名字なら存じているんですがねぇ」
「楓だ。守屋楓」
「おや、素敵なお名前ですねぇ」
★★★
こんにちは、作者です。
化け物と青年の織りなすダークファンタジー!
ってかんじの作品になる予定です。
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