第十五話ークリスマス会一~緊急事態~ー
それからだいぶ時間が経ち、今日は十二月二十日。クリスマス会もほぼ準備万全で、ただ心配なのが久賀が風邪をひいたことだ。明日には治るだろうか……?
「さて、クリスマス会の実行委員、お疲れ様な、広瀬、多奈川、麻実。本番まで気を抜くなよ」
担任がホームルームというか終業式の後の時間でねぎらいの言葉をかけた。この学校に転校してきて、だいぶ経つのでわかるが、この担任、藤原先生は三十代の独身で頑張って婚活をしているようだ。よくホームルームでグチグチ言っている。
「理事長情報だが、今年はかなり面白くなりそうだ」
むくっと一人の女子生徒が立ち上がって、『二十四日、楽しもうね!!』と大声出した。担任の藤原先生は、『なんで実行委員でもないお前がしゃしゃり出る……』と言いたげな顔をしていた。よく見るとその生徒は夏芽のお姉さんの有紀さんだった。
「夏芽のお姉さん、クラスメイトだったんだ」
-おい、聞いたか? 今年のクリスマス会、外だし、夜らしいぞ-
今日は十二月二十四日、そう、クリスマスイブでありクリスマス会当日だ。終業式も無事終わり、グラウンドに焚き木をする用意中だ。男子メンバーがオレだけなので力仕事は基本、オレだ。ラグビー部や野球部などのクラスメイトがヘルプで何度も助けてくれた。女子メンバーは体育館で商店街の店主達と最終チェックをしている。
「みんな、ありがとう!!」
「なーに、男子メンバーがお前しかいないってわかってたから、参加する身としては協力せんとな!!」
「広瀬が転校してきてくれてありがたいよ」
「どうした? 急に」
「楽しいクリスマス会にしような!!」
ラグビー部の
「もしかして、トイレか?」
「ちがうわ」
「悪い悪い、
そこに助け舟を出したのは野球部の
「どういうこと?」
「さすがに二か月以上、毎日面と向かって打ち合わせして、時には他愛もない話をして……とかしてたらさ、実行委員の中で好きな子とかそういう関係になるだろうからさ、ちょっと広瀬に協力しようかと思ってさ」
「ありがとう、でも大丈夫」
「東京に彼女がとか言わないだろうなぁ?」
「東京の友だちとは最近、ほぼ連絡とってないなぁ。彼女かぁ……」
オレは女子メンバーの商店街との最終打ち合わせは無事進んでいるのだろうかと思いをはせた。
「日辻、他人の恋路に口をはさむのは野暮というものだよ」
「ひぃ、
「人を幽霊か何かと思っている?」
「筋トレサボってすいません!!」
「あぁ、いいよ、別にただサボってただけなら怒るけど、人の役に立つことしていたなら怒らないよ」
準備も無事終わり、体育館での商店街との打ち合わせも無事終わっていた。当初の予定から変わったのは商店街の全員、『高校生からお金は取れない』ということで、格安の予定で折れたのに話は振り出しに戻り無料で商品を配布してくれることになった。その具体的な理由を聞いていた。宇川さんがいつも通り、高らかに笑いながら言った言葉で実行委員のメンバーの視線は一気にオレと夏芽に集まった。
「悪いな、夏芽ちゃんの彼氏!!」
「え?」
真っ先に反応したのは久賀だった。確かに隠していたわけでも、ここで恋愛してはいけないという決まりもない。
「ちょっと迅くん?」
「迅くんと夏芽ちゃん!?」
「アハハ、そういうことなんだ。いや、別に隠していたわけでもないし、やることはきちんとやったしさ」
「ま、二人はいつかそういう関係になるだろうとは思っていたけどさ」
時間はもう夕方を過ぎ、十八時五十九分。
「ここで男魅せろ!! 迅くん」
「もっと惚れさせてよ、迅くん」
夏芽の『もっと惚れさせてよ』でもともとやる気だったオレも俄然やる気がでてきた。マイクを持ちクリスマス会の開始を合図した。
元々、麻実さん、多奈川さんの友だちであったり、久賀や夏芽の友だちに少し協力を仰いでいてフォークダンスを頼んでいた。それと同時にグラウンドに火がともった。これは消防局の指示のもとオレが一人で火をつけたのだ。
「……クリスマス……か」
一分ほどの短い曲が終わった。徐々にクリスマス会の一般参加生徒が集まってきた。
「ここからは一般参加生徒もフォークダンスに参加しても大丈夫です」
オレはアナウンスをすると同時に物思いにふけていた。日本にはクリスマスといえば、恋人と過ごす風習がある。しかし、オレは恋人が楽しそうに目の前で踊っているのを見届けるしかできなかった。ちょうど夏芽を見ると、男子生徒とフォークダンスを踊っていた。
「……オレも夏芽と踊りたかった……」
フォークダンスの用意した音源が終わった。
「ここからは各自、自由行動です。入場した時に受け取った雑貨屋矢切さんのセットの袋もしくは中身を提示することで、南商店街の肉屋の宇川さん提供の唐揚げ、鮮魚のはななまるさんのバター醤油炒め、料亭 宮古さんの卵焼きを無料で提供してくれます。なお、料亭 宮古さんによる出来たての卵焼きは前半のみで、後半は作り置きとなります」
「なんと、片思いのあの男子や彼氏の胃袋を掴みたい女子生徒、必聴です!! 料亭 宮古さんにおきましては後半は体育館にて今回提供してくれる卵焼きの焼き方をレクチャーしてくれるそうです!! 残念ながら男子生徒には教えてくれないそうです。男子生徒が知りたければ気になるあの子に声をかけて頼みこんじゃえ」
「……との事です。なお、何かわからない事があれば、会場内にいる実行委員の、広瀬、多奈川、麻実、梶原、久賀まで気軽にお問い合わせください」
一般参加の生徒が問い合わせしやすいように、実行委員は見回り区間を決めていた。
「広瀬、楽しんでるか?」
肉屋の宇川さんの近くでオレが巡回している、日辻に話しかけられた。クリスマス会の参加予定者全員が揃っているし、そろそろ有志企画を開催する為に手伝いを依頼していた男子を招集しようと思っていたところでもあった。
「ん、あぁ、日辻か。オレは楽しむよりも実行委員の仕事がメインだからな、代表だしさ」
「ガハハ、広瀬くん!! こういう行事は実行委員も楽しまないと損だ!! というか、楽しまないと参加者に実行委員が楽しんでいないのが伝わっちまう。見回りも大事だが、やることあるんやないか?」
宇川さんが唐揚げの予定分を揚げきったので、牛肉を焼き始めていたところに、ガハハと高笑いしながら話しかけられた。『広瀬くん』と口の中に何か挟まっている感じに言いにくそうな宇川さんなりの優しさでおそらく、いつものように『夏芽ちゃんの彼氏!!』とは呼ばなかったのだろう。
「……」
「そうだぞ、広瀬。お前が楽しくないと俺たちも楽しくない、イベントってのはそんなもんだぞ。肉屋の店主の言う通りだ」
「日辻……」
「広瀬くんのダチ公の言う通りだ!! 兄ちゃん、特別に牛串一本やる!!」
「やりぃ!!」
「って、宇川さん、牛串は聞いてないですよ!」
「ガハハ、オレらはマニュアル通りの商売なんざせんよ!!」
「肉屋の店主に一本取られたな、広瀬」
「ま、まぁ、ちゃんと焼いてくれるなら許可します」
鮮魚のはなまる付近の見回りを担当している夏芽から連絡が来た。多奈川さんや麻美さんに久賀と全員からクリスマス会本番期間は『個人的やりとりは禁止!!』とオレと夏芽には言われていた。しかし、連絡してきたということは何か緊急事態だろう。
「どうした?」
「お父さん……鮮魚のはなまるさんが予定より早くバター醤油炒めが終わったから、マグロのフライをするって言って、肉屋さんと鍋とフライパンを交換しました。どうしよう」
「そっか、こっちも肉屋の宇川さんが牛串始めたから、しっかり火を通すのを条件に許可を出した。はなまるさんの方も、それを条件にOK出して」
「だってさーお父さん!!」
「あの、夏芽さん……? スピーカーにしてたの?」
「そうか、うむ、合格だ! さすがは……」
夏芽のお父さんが何かに納得していた。夏芽がまだ電話が繋がっていることに気づいて慌てて、『ありがとう、迅くん』とだけ言って電話を切った。夏芽のお父さんは何か試験をしていたのか……?
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