AI作者物語

@haily

未来の記憶

第1話


近未来、AI技術が驚くべき発展を遂げた世界。人々は生まれた時から定期的に自分の情報をAIに学習させることで、死後も自分の一部がこの世に存在し続けることができる時代になった。しかし、AIはあくまでデータを基にした模倣であり、本人そのものではないため、言動にはどこかチグハグさが残る。


安邦はAIとアンドロイドの研究者であり、その技術の最前線に立つ人物だった。彼の妻は息子思いの良妻で、家族を何よりも大切にしていた。しかし、その息子が10歳の時に突然の事故でこの世を去った。息子を失ったことで、妻は生きる気力を完全に失い、日々の生活が灰色に染まったようだった。一方、安邦は息子の死を受け入れることができず、研究に没頭し、家族を顧みることが少なくなっていた。


そんな中、安邦は息子の情報を元にしたアンドロイドを作成し、家族として迎え入れることにした。彼は、これが家族を再び繋ぎ止める手段だと信じた。


息子のアンドロイドが家に帰ってきたその日、家は一時的に喜びに包まれた。息子の姿形そのもののアンドロイドが、まるで何事もなかったかのように家にいる。それは、家族が再び一緒にいるという幻を見せてくれた。しかし、時間が経つにつれ、アンドロイドの言動に違和感を感じ始めた。


「お母さん、今日は学校で友達と遊んだよ。」アンドロイドが微笑みながら話す。しかし、その言葉には感情の温度が感じられない。


母はその言葉に微笑み返すものの、心の奥底で何かがズレていることに気づいていた。息子のアンドロイドは、確かに息子の姿をしているが、その内面は全く別物だった。息子が本当に感じていた喜びや悲しみ、思い出の一つ一つがそこにはなかった。


それでも、息子の姿を見ているだけで、母は次第に生きる気力を取り戻していった。日々が灰色だった彼女の世界に、少しずつ色が戻り始めた。安邦もまた、家族との時間を大切にするようになり、研究に没頭していた頃の彼とは違う姿を見せるようになった。


日々が過ぎるにつれ、安邦と妻は次第にアンドロイドとの生活に疲弊していった。息子が戻ってきたと喜んだ最初の気持ちが、次第に現実に直面することで薄れていった。そしてある日、アンドロイドの使用期限が近づいたことが告げられた。


「アンドロイドの稼働がもうすぐ終了します。」AIの音声が無機質に響いた。


その夜、アンドロイドは静かに両親の前に立ち、最後の言葉を告げた。「お父さん、お母さん、今までありがとう。」


その瞬間、両親は息子の声を思い出した。これが本当に息子からのメッセージだったのか、それともただのプログラムの一部だったのかはわからない。しかし、その言葉は確かに彼らの心に響いた。


アンドロイドが停止した後、家は再び静寂に包まれた。しかし、両親は過去ばかりに囚われず、未来を見つめる力を取り戻していた。息子の死という悲劇を乗り越え、前を向くことができるようになったのだ。

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