一度も話したことないクラスメイトからいきなり「俺の彼女を寝取ってほしい」とお願いされた

凪奈多

1章

プロローグ

第0話 かくして寝取らせは始まった

「無理言ってるのは分かってるんだ。でも、頼む。一回、一回でいいから他の男に抱かれてきてくれないか」


 言葉がでない。

 目の前で、ベッドの上で、全裸の彼氏の土下座を見下ろす私。

 始めての彼氏。付き合って1ヶ月記念の今日、とうとう行為をする事になっていたのに、彼氏である鷺沼穣さぎぬまみのるは勃たなかった。

 惨めだった。私に魅力がないからなのかと思って、泣きそうになった。

 しかし、涙がこぼれる前に、彼は全裸のまま土下座を始めた。


「い、意味が分かんないんだけど……。他の男に抱かれてほしいって……私、穣くんの彼女だよね? 彼女が他の人に抱かれるなんて普通嫌じゃないの……? それとも私のこと嫌いになった?」

「ち、違う! 大好きだ。俺は菜乃花なのかのことが大好きだからこそ、他の人に抱かれているのを想像すると興奮するんだ!」

「だから、意味分かんないって! っていうか、私は穣くん以外の人としたくないし! 今日、すごく楽しみにしてたのに……大好きなあなたに始めてを捧げられると思ってたのに……そう思ってたのは私だけなの!?」


 あぁ、ダメだ。泣きそう。ていうか、普通彼氏にこんなこと言われたらみんな泣くよね?

 なに、他の人に抱かれてほしいって。

 しかも、私、処女なのに……。始めてが穣くんじゃない人になるのに、本当にいいの?


「……なあ、菜乃花。寝取られって知ってるか?」


 名前だけならよく聞く。えっちな漫画やアニメで人気なジャンルらしい。見たことはないけど。


 無反応な私に、穣くんは私が寝取られを知らないと思ったのか、寝取られについて、ペラペラと語りだした。

 正直、なにも頭に入ってこないけど。

 そして、穣くんがどうしてそんな性癖に目覚めたのかについても語りだす。


 どうやら、中学のとき好きだった幼なじみの子が、人気の少ない空き教室で、クラスのイケメンとヤっているのを偶然見たときらしい。

 それ以降、寝取られじゃないと興奮できなくなったと。


「じゃあ、その寝取られ? の漫画でも動画でもなんでもいいから見ながらシてよ! せめて……せめて、初めてはあなたと……」

「わかった。でも、その代わり菜乃花に他の男に抱かれてきてほしい」


 代わり!? 代わりってなに!? それじゃあ、私とするのが嫌みたいじゃん。


 それから、穣くんは所謂寝取られもののAVをスマホで流しながら、私との行為に及んだ。

 穣くんはスマホの方を見るばかりで私とは全然目が合わない。

 部屋に響き渡る私じゃない女の喘ぎ声。呆気なく終わる行為。

 私は自分が穣くんのオナニーの道具か何かではないかと錯覚するくらいには、惨めだった。


 この時、私の中の何かが壊れた。


◆◇◆


 始めての寝取らせは、穣くんがマッチングアプリで連絡を取った大学生だった。

 容姿を一言で表すならチャラい。いや、容姿に限らずノリなども軽く、女の子を道具としか思っていないような人だった。

 顔を会わせて1分でホテルへと向かい、部屋へ入った途端、穣くんともしていない、舌を絡める深いキス。

 それから無理やり舐めさせられて、お返しといいながら、私の身体を舐め回される。

 それから行為。男が満足するまでそれは続いて、満足するとさっさと帰っていった。

 その様子は穣くんに頼まれて動画におさめていた。


 その後、穣くんと動画を見ながら行為。やっぱり穣くんは画面を見るばかりで私と目が合わない。

 でも、穣くんが今までにない以上に興奮していることはわかった。しかし、なんの感情もわかない。


 そんな行為が二回、三回と繰り返されていく度に私の心は壊れていく。

 なんで、穣くんのことが好きなのか、今はもう分からない。

 三十歳以上年の離れたおじさんとも寝た。

 中学時代の同級生とも寝た。

 穣くんが寝取られ性癖に目覚めたきっかけの人とも寝た。


 月に二、三度行われ、たったの半年で私の経験人数は二桁に至っていた。


「なあ、菜乃花。次は那波ななみに頼んでみたいんだけど、どう?」


 行為を終えた後、ベッドで二人で寝ているとき。

 普通のカップルであれば、ピロートークとして、甘い言葉を囁き合ったりするのかもしれないが、私たちの間では、次の寝取らせの予定を決める場となっていた。


「那波って、クラスメイトの那波玲ななみれいくん?」

「そう」


 クラスメイトはさすがにまずいのではないだろうか。そうは思いつつも、私に拒否権はない。

 私はただの道具。穣くんの性欲を満たすための道具でしかないのだから。


「わかった」

「ありがとう。俺から声かけておくよ」


 那波くん。顔はかっこいいけどあまりいい噂は聞かない。

 なんでも、中学時代に暴力沙汰を起こしたとかなんとか。それが影響してか、クラスに友達もいないようだった。

 だからこそ、穣くんは彼を選んだのだろう。


 私は何度か彼と話したことがある。彼は噂が本当に事実なのか疑いたくなるほど、ふにゃりと柔らかく笑う男の子だった。

 こんな人が暴力沙汰なんかおこすだろうか、彼と話していて常にそう思っていた。さすがに直接聞くことはなかったけど。


 しかし、どうあれ、そんな那波くんが相手だろうがなんだろうが、どうでもいい。

 男はみんな、ただ、私を道具のように抱いて、行為を終えるとさっさと帰っていくだけ。

 口でどれだけ優しくするとか言っても、結局みんな私のことを気遣いもせず、乱暴に抱く。

 唯一、私が連絡先を持っている中学時代の男が定期的に連絡してくるが、あれも性処理のためだろう。私と会いたいとかではない。私を使ってたまったものを吐き出したいだけ。


 誰も私を見ない。

 私はただの道具。

 壊れてしまった私を、一人の女の子として見てくれる人なんて、もうどこにもいないのだから。

 

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