009 姫、冒険者を目指す002

『ちょっと、鱗をあげるだなんて聞いてないんですけど!』


 ピィちゃんは主のユナに抗議の声を上げる。


「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」


 ユナはあっけらかんとした顔で答える。


 ピイちゃんはハァと心の中でため息をついた。


『ユナ様は自分の価値を分かっていないのよ!』


 世界に現存する竜種は四体。その一体創世の竜とまで呼ばれる存在。幼竜の鱗とはいえ価値は計り知れない。それを行きがけの馬車の駄賃に渡してしまうとは……

 人の世界に疎いピイちゃんでもそれが破格の価値があることくらい理解できた。


「もう、冒険者ギルドにすぐに行きたかったのに!」


 ユナはぷくっと頬を膨らませピイちゃんに抗議した。


『いけません。さっきの人族が鱗欲しさに襲ってくるかもしれないんですよ!』


「そうかな、そんな匂いはしなかったんだけどなぁ」


 ユナは不満そうだ。しかし、ここは世界の空を見分を広めると称して世界を飛び回っているピイちゃんの仕事。しっかりとした人族の常識を教えてあげなければならない。


『姫様、今日は宿でおとなしくして下さい』


「う~ん。分かったわよ」


 ユナはしぶしぶ頷く。ピイちゃんの言うことを聞くようにとヴェルにもきつく言われていた。


「でも、宿代なんて持ってないから、換金しないとね」


 ユナはポケットから小さな鱗を取り出す。


「ピィ!」


 ピイちゃんはつぶらな瞳で天を仰ぎ見るのだった。

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