ありったけの生成スキルで最強です〜【スキル無し】と鑑定された無能貴族は奈落に捨てられますが、残念ユニークスキルでいくらでもスキルは増やせるので、必ずお前らに復讐してやる~
柳御和臣
01 落第した能無し
「お、俺の……能力スキルがな、ないだ、と……!?」
ステージに立たされた一人の少年、キリヤは呆然とつぶやいた。
♢♦♢
【聖の女神バルキリー】が下さった、たった一つの水晶によるスキル鑑定。
それは、ウォサレト王国の貴族たちが十五歳になると必ず行われる風習である。
それも、嬉しいことにその鑑定結果次第で、王国内全土の有名魔法学園に推薦合格。
また、通常Eクラスから始めないといけない冒険者を、無条件で上位Aクラスから始めることができるという特権を貰うかもしれない、貴族にとっては待ち遠しい風習なのだ。
もちろん、キリヤもその内の一人であった。
なぜなら、キリヤも正式な貴族の一人として、今年十五歳の誕生日を迎えたのだから。
しかし、キリヤは其処らの貴族とは全く違う大きな点があった。
それは、『学問』、『剣術』または、『運動能力』全てに置いて貴族にとどまらずにキリヤはずっとトップに君臨しているということだ。
親に、五歳から英才教育を無理やりさせられ、『魔術呪文の総暗記』、『五時間の剣術の稽古』、『身体強化の特訓』を毎日欠かさずするようになって、気が付けば十年が経過していた。
その努力の量は、通常の兵士の約二倍。
そのため貴族たちの中ではキリヤと、天と地の差を感じ、努力することを諦める者が増え続けていた。
そのうえ、近頃「彼、キリヤこそが次期王子としてふさわしい」といったキリヤを称賛する声が後を絶たなくなってきている。
つまり、キリヤはこの鑑定について、皆から大いに期待されている一人なのだ。
そして、キリヤ本人もきっと、いや絶対に成功すると信じていたのだが……。
「な、なんで無、無反応なんだ……?」
キリヤは、もう一度自分が触れている水晶を確認した。
本来なら、水晶に「エクリーム」と触りながら唱えると、触れた本人の『スキル』によって色を示すようになっているのだが……。
キリヤの場合は、なぜか透明……さっきから、無反応のままだ。
通常、攻撃型スキルは赤。
回復型スキルは緑。
魔術型スキルは青。
これら三つが、主な基本の色だ。
これに、応用スキルを合わせると約十種の色に分けることができる。
そして、スキルに対応する魔力の質、量、精度によって色の濃さが変わっていく。
つまり、『特化したスキル』を待ち合わせた人ほど、色が濃くなるのだ。
極稀に生まれつきそのスキルを全て持つ人が現れるというが、その時は水晶が幻のように虹色が光り輝くと聞いている。 極稀というのも、今までに虹色鑑定が出てきた人は、十人にも満たないといわれているからだ。
そんな中、キリヤは、いや他の貴族たちも「キリヤは、必ず虹色鑑定がでるだろう」と思われていた。それほど、キリヤは皆から本当に期待されていたのだ。
しかし、結局のところ、出たのは虹色どころか全く濃くない、というより透明……。
キリヤには、誰もが生まれつき持つはずの『魔力』、『スキル』が全くないということになってしまう……。
努力もしないような平凡な奴でも、一応薄い色はさすがに出るらしい……。
「よっしゃ、俺赤だしたぜ!」
「やった!想像以上に濃い色が出た!」
「うわぁ、僕のめっちゃ薄い……」
「よし、青、魔術型だ!」
前後左右ともに、周りからは感極まりない程の大きな声が聞こえてくる。
ちょっと前までは、キリヤにとってそういう声など雑音程度しかなかった。
自分より劣っている者なんかの考えなんかあてにすらしてなかったからだ。
___しかし、今となっては……。
「あれー、キリヤ様ー?もしかして、スキルないんですかー?」
すると、呆然としているキリヤの前に何人かの人達が集まってきた。
「まじかよwコイツスキル持ってないんすかー?」
「おいおいw、無反応なんて前代未聞じゃねえのw」
「すげぇwやっぱお前天才だわw」
キリヤに絡んできたのはやはり彼らだった。
リーダー格のリンダを取り巻きとする馬鹿な集団。
……リンダは元々、現国王の息子であった。
そのうえ、兵士に負けないくらいの実力がかれには備わっており、本当ならば国王を受け継ぐ予定だったのだ。
しかし、リンダは努力することを常に避けていた。彼の言い分によると、ただめんどくさいからだという。
そのため、リンダを嫌う貴族たちは一方的に増え続け、よりによってはキリヤという毎日を努力して頑張り続けた天才にトップの座を奪われ、ついにはキリヤが次期王子を受け継ぐ事になってしまった。
だから、リンダはキリヤをひどく恨んでいると聞く。
「お、お前ら……」
キリヤは、頭から物凄い怒りが沸き上がった。
しかし、ただ何も言い返せずに黙り込み、それを口にすることはなかった……。
それもそのはず、今リンダが触れている水晶はまさしく幻ような虹色がただひたすらに輝いていたのだから……。
___あぁ、そういうことだったのか……。
つまり、彼、リンダはキリヤとは比べものにならないほどの『本物の天才』いや、選ばれた逸材超人者だったというわけだ。
「す、すげぇ、リンダの奴虹色出しやがった……」
「やっぱ、アイツってすごいな」
「てか、キリヤの方無反応だったらしいぞ」
「えっ、まじ?やっぱキリヤってただの無能貴族じゃね?」
またもや、周りではキリヤとリンダの話題でいっぱいになっている。
『トップ』から『無能』に降格した、無能貴族のキリヤ。
『貴族一の嫌われ者』から晴れて『選ばれし逸材』に昇格した、貴族のリンダ…か……。
キリヤは、前まで「自分には才能がある」と思っていたことにとてつもなく恥じらいを感じた。
本当の下剋上……、まさかこんなことになるなんてキリヤは想定もしていなかったのだ。
「これが、お前との差だ!キリヤ!」
「っ……」
本当の自分がまさかの【スキル無しの無能】と突き付けられたことに絶望を感じ、キリヤはふと顔を伏せた。
……周囲は、まだキリヤに目を向けていた。
しかし、目を向けているだけであってその眼光は既に失望を表している。
「キリヤ!もちろん、この風習で無能と鑑定された時はどうなるか知っているよな!」
「えっ……?」
___あ、そ、そうか……。
リンダの言葉に、ようやくキリヤはあのことを思い出した。
___もし、この鑑定で十分な特権を得られずそのうえ、無能と判断された場合の罰則を……。
それは、周りからの陰口、特権を貰えなかったことなどとは比べ物にならない程に、貴族の皆が恐れていたことだ。
罰則の名は、【転移処刑】。
内容は、危険度SSの最恐ダンジョンの最深部、【奈落】に武器も何も持たずに転移されてしまうというものだ。
だが、キリヤもその罰則について詳しくは知らない。
なにせ、自分の実力に自信があったキリヤはその罰則を気にも留めなかったのだ。
___まさか、罰則を受けられるほど自分が無能なんてな……。
鑑定に失敗した以上、キリヤは絶対にどうすることもできない。
だから、もう、諦めるしかないのだ……。
「すごいじゃないか、リンダ!」
「えっ……?」
急な言葉に、キリヤはふと後ろを振り返った。
この低い声……キリヤには聞きなじみがあった。
「リ、リアス国王……」
額の十字傷……。
それは、正しくこの国の王の姿であった。
「これからは、リンダをこの国の王として迎え入れよう!」
「ありがとうございます!父上!」
「はっ……?」
リンダと国王は、キリヤを忘れているかのように笑い合いながら夢中に話し合っている。
___おい、本当だったら俺が次期国王を継ぐはずなんだけど……。
キリヤは、国王の言葉に腹が立った。
だが、キリヤはそう言われても何も言い返せなかった。
なぜなら、リンダが出たのはあの虹色。
それなら、こんな無様で無能なキリヤよりリンダに国王の座を取らせた方がよっぽどの得がある。
「それと、お前には失望したよ、キリヤ君」
「っ……」
キリヤをそこら辺のごみを見るような失望した目で国王は言った。
どうやら、キリヤは国王までも失望させてしまったらしい……。
だが、鑑定結果からこうなることはもう分かりきっていたことだ。
___俺には才能がない、ただの足手まとい……。ということを。
「お前にはだいぶ金をかけたのだがな……」
「す、すいません……」
「はぁ、残念だがもうお別れだ。キリヤよ、お前はここで死んでもらうぞ」
「なっ……ほ、本当だったのですか……」
「あぁ、そうだ」
本気だ。国王が嘘をついたことはない。本当に、彼はキリヤを殺す、いや奈落へ転移処刑させる気だ。
___いやだ、いやだ、いやだ、俺にはまだやりたいことがたくさんあるんだ!恋人を作って、冒険者になって国王になって……、それからっ……。
「泣いても無駄だ、この件は国民に絶対に知られてはならない恥じることなんだ。仕方なく死んでくれ」
「や、やめてくだ、さい……、ど、努力して強くなってみせるから!お願いします!」
キリヤは、必死に命乞いをする。
だが、国王の目は変わらず失望そのものを表すようなものだった。
「さよなら、キリヤ君、いや……、【能・無・し・】野郎」
「くっ……」
それは、キリヤが聞いた、国王の最後の言葉であった。
しかし、まだキリヤはあきらめなかった。
体が消えゆく瞬間さえも、キリヤは必死に周りに助けを求めた。
だが、無意味なことに誰も助けに来てはくれなかった。それどころか……。
___笑っていた。
そうか……。
そういうことか。
それにつられて、キリヤも顔をにやけさせる。
___ぜったい……絶対に、後悔させてやる……。
それが、最後の最後、キリヤが思った本心だった。
___プロポータル(処罰の転移)……。
誰かがそう呪文を唱える。
___そして、その瞬間、この場から一人の少年が消えたのだった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「キリヤ、なんか笑ってたな」
リンダが不思議そうに言う。
「ほっておけ、リンダよ。きっと、気が動転して頭がおかしくなっただけだ」
リンダの質問に即答で国王は答えた。
あたかも、彼の最期の結末を知っているような口調で……。
「そ、そうですよね」
「あぁ、しかもスキル無しの無能だ。一時間も持たずに死ぬだろう」
「ですよね!あいつなんか、すぐ死ぬに決まってる!」
「それより、今日はお前だけでなく他の貴族にも、もう二人だけ虹が出たそうだ!もちろん、今日はお祝いにパーティーをするぞ!」
「はっ、ありがとうございます!」
あの『何か』の違和感を考えるのをやめリンダは微笑んだ。
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