夏休み前日;7/27 ー②第三者視点の思い出 4ー

いつの間にそこにいたのだろうか?


先程までは確かに誰も廊下にいなかったはずだ。


…恐る恐る近づいていくが、彼女はまだ此方に気づいてはいない。


1箇所だけ開いた窓の上に顔を乗せて


此方に振り向くことなく、ただひたすら


窓の外の夕日を眺めている。




夕日に照らされる中


また彼女の透き通った白い髪がチカチカと光を反射すて、


差し込む光を7色へと変えていく。


その幻想的な光景に、僕はどこか見覚えがあった。


気を失う寸前にも似たものを見た気がする


が、違う。気を失う寸前に見たからでは無いと


直感的にそう思うのだ。


そんな、一度見ただけの記憶では無い。


もっと何度も見たかのような……


言うなれば、記憶に無理やりヤスリで


長い間をかけて刷り込まれたみたいな


忘れられない、強い強い既視感。




…僕はやはりこの子の事を知っている。


それ以外に説明がつかなかった。


でなければ夢の中になど出てくるはずがないのだ。


そこまで考えた所で、ある素朴な疑問が浮かぶ




「何故彼女のことを覚えていないのか?」



白髪なんて滅多に見ない色だ。


とにかく印象に残る上、珍しいこの色をそう簡単に忘れるだろうか?


少し考えてみると、おのずと1つの仮説へとたどり着く。




彼女は僕の記憶に強く関わっていて、いずれかの記憶を思い出すトリガー的な存在になっているという仮説に。




思い返せば今この夢に入るまで、殆どあの夏休みについて思い出すことは無かった。


理由は学校に着くまでにどんな目にあったかを見れば明白だ。


僕にとって、それ程強く小学校時代を象徴するような存在なのかもしれない。


それこそ思い出してしまえば


つられて他の記憶まで思い出してしまう程の。


……今も僕はあの夏にあった殆どを思い出せない。


きっと思い出せば、精神が耐えられずに崩壊する。


少し思い出しただけであの様なのだから。


結論を言うと


僕が彼女を思い出せないのは、無意識下の自己防衛という訳だ。


それならこの夢に出てくるのもわかる。




うん、なんだか疑問が解けてスッキリした気分だ


気を取り直して、僕はまだ外を眺める彼女に声をかけ……




ん?いや待てよ…


声をかけようと開いた口をとじる。




つまり彼女を思い出してしまったら


廃人になるかもしれないって事?




…声をかけるのをやめて今すぐ離れよう


彼女に背を向けた瞬間




「貴方、誰…?」




、、あ。






後ろをちらりとみると彼女が、こちらを


驚いた顔で目を見開いていた。




あぁ、少し遅かったか…


今から逃げることも無理では無いが…




僕はピタリと一瞬立ち止まり


深呼吸をした後、覚悟を決めて後ろを振り向く。


危ないと分かっていても


彼女に対しての好奇心の方が勝ってしまった。


彼女の顔が視界にうつり




夕日を反射する深い深紅の瞳と目が合う。


改めて近くで見ると凄く、整った顔つきだ。


消えてしまいそうな位白い肌に


染みひとつない白いワンピースがよく似合っている。


一言で言うなれば、紛うことなき美少女。




ーザガガッッー




ッっ……


そう感じたのもつかの間、彼女が視界に入ると


ノイズがかかった映像が頭の中に蘇える。


その所々に彼女の姿が映っているという事は、




やっぱり記憶の栓のような存在なのか…。


今の所、記憶の断片による身体への吐き気や


目眩などの異常などは無い。




まだ、彼女を見ていても大丈夫そうだ。




一見普通の記憶に見えても


まずい記憶の時はすぐ身体に出る、慎重に答えよう。




「私の見間違いじゃなかったらさ…、


おじさん、さっきまで…図書室にいた、よね?」




彼女が怖々という感じで聞いてくる。




お、おじさん……




(確かに今は高校生の姿だけど、おじさんはちょっと傷つく…)


言い方から見るに図書室にいたのはバレているようだし、


このままだとただの不審者だ。


…何て答えれば怪しくないかな、、



なんと言おうか考えていると




「皆が来る前から隠れてたみたいだけど…


もしかして、皆の事待ってたの?」




薄々、彼女がいた位置的に


隠れていたこともバレていそうとは思ってたけど


やっぱりバレてたか。




それよりも知り合いだと思ってくれたのは好都合だ、


その体で話を進めよう。




「実はそうなんだよね!その中に、渚君っているでしょ?」




「渚?…おじさん、ナギの知り合いなの?」




自分の名前を口に出してみたが


やはりこの夢には自分とはまた別の自分は


確かにいるらしい。




ナギ…。


(あだ名で呼ぶなんて僕とどんだけ仲が良かったんだ…?)




「うん、渚とは従兄弟なんだ」




動揺を出さないようにしつつ答える。




「そう、なんですね…。ナギの従兄弟…」




意外そうに目を見開きながら彼女はそう呟くと


一転して何故か考え込むような暗い顔になる。


そして口を開きかけ…

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