夏休み前日;7/27 ー②第三者視点の思い出 2ー

ー階段を登る事数分


2階にある「図書室」へと到着した。




中に入ると、夏休み前日の放課後という事もあり


見た限りでは人は1人もいないようだ。




「早めについちゃったかな…?」




確かアレは授業終了直後だった気がしたのだが、


僕の方が早く「図書室」に来てしまったらしい。


まあ、鉢合わせするよりかはよっぽどマシだろう。




「…それにしても懐かしいな。


確かにこんな感じだったよなぁ」




ぐるりと改めて年季の入った図書室内を見返す。


6年間、時間さえあればここにいたんだよね…。


案外どんな感じだったか覚えてるものだ。


そういえば、本の場所や中身も再現されているのだろうか?


1番近くにあった分厚い本が並んだ棚を見てみると、


何故かほとんどの背表紙がぼやけていた。


あー、さっき図書室には裏口から入ったな…


裏口は皆ほとんど使わなかったからか、


厚めの専門書ばかり並んでいた。




「ここの本棚の本はほとんど読んでないってことか。」




やっぱり、覚えているかどうかで内容が変わるらしい。




「まぁ、完全再現までは流石に無理だよね」




そりゃそうだ。6年間とは言えど、全ての本を読み切った訳ではない。


試しに1冊棚から本を取り出して開くと、水に濡らした半紙に墨でも垂らしたようなぼやけた文字がびっしりと書かれていた。


かろうじて文字が書いてあることは分かるが…


パラパラとめくってみても特に変化は無い。


パタリと本を閉じ、元の場所へと戻そうとした時


視界の端に背表紙がぼやけていない本が映る。




「ここの棚で読んだ本、あったかな?」




さっそくその本を手に取ってみる。


タイトルは…




「「世界の楽園」…?」




何となく、見覚えがあるような?


吸い込まれるかのように、本から手が離せない


そのまま本を開こうとしたその時、




バァッン!




図書室の入口から乱暴に扉を開ける音がした。




「ちょっと、乱暴に扱っちゃ駄目よ!


あっ、ほら扉ガタガタになってるじゃないの!?」




「エッ、マジかよ!?さっきの話聞いてから


楽しみ過ぎて張り切り過ぎたみたいだ…。


こんなに扉が脆いとは思って無かったんだよ!」




「そういう問題じゃないでしょぉ!


ただでさえあんたは馬鹿力なんだから考えなさいよ


ほらっ、屁理屈言う前に扉直しなさい!」




「あっ、ちょ、瑠璃るり、ごめんってばぁ゛…


分かった直すって!だから扉貸してよ」




ガコッ




「ほら、直ったぞ?」




「うっ…まあ、直ったならいいか…。


次は気をつけてね?あと図書室にあんたはもう少し


来た方がいいと思うわ、、。」




馬鹿力の男子と瑠璃るりという少女…。


間違いない、あの二人だろう、あの夏を共に過ごした


仲間達は。僕自身はまだ教室にいるようだ。




「まあ、考えとくよ…。


それよりさ!!早くさっきの続きを話そうぜ!」




「全くもう、せっかちなんだから…。


皆の事、呼んでくるね。」




瑠璃と呼ばれていた少女が図書室を出て行く。




チリンチリン




涼しい風が吹き始め、図書室の窓に吊り下げられた


蝉の音をかき消すように風鈴がなった。




「…。座って待ってるか。」




そう言うと少年が椅子に座るのを僕は本棚に


隠れるながらこっそりと眺める。


今から「あの話」をするのだろう、


そんな事を思いながら、記憶と変わらないままの


彼の事を慎重に思い出す。


そう、彼の名前は確か…




…チリィィーーン




思い出そうとした瞬間、一際強い風が吹き


風鈴の澄み切った音が図書室に鳴り響いた。




「ッッ!?」


すると突然、


猛烈な眠気が僕を襲った。


まずい、何故かとても、ねむい…


今からが、大切なのに……


意識してもまぶたが閉じていく。




ガラガラッ


「連れてきたよー!」


!!、扉を開ける音で少しだけ意識が浮上する。


彼女が戻ってきたようだ。他に複数の足音も聞こえる。


けれど、僕の意思とは裏腹に


聞こえる声が段々と、小さくなっていく。


意識が…沈んでいく。




意識が消える直前、


僕が隠れている本棚の隣から1人の少女が出てきたのを見た。


あまりの驚きに目が覚め、つかの間の時間が生まれる。




一体いつからそこにいたのだろうか?


いや、それよりも……




チカリと、彼女の目の覚めるような白髪が


太陽に反射して煌めく。




あんな子は…






僕の記憶には、無い。




そう思ったのを最後に


僕の意識は完全に途切れた。


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