デスゲーム風に集められた即席チームでバジリスクを捕まえる話

秋犬

即席チーム誕生

 気がつくと薄暗い部屋にいた。起き上がると目の前のディスプレイがブオンと音を立て、全身黒ずくめで仮面を被った男が映る。


「ここはどこだ、俺は誰だ?」

「貴方の名前は村上颯太むらかみそうた。そして私はこのゲームの主催者、葉山はやまと申します」


 俺の言い間違いを男は律儀に訂正してくれた……って、そうじゃなくて。


「いやいや、今時流行らないでしょ。デスゲームなんて」

「でも皆さんゲスデーム、おっとデスゲームお好きでしょう? 金に目が眩んだ愚か者がぎゃああっと挽肉になっていくところとか最高じゃないですか」

「いや、俺その想定の皆さんに入ってないと思うけどなぁ」


 仮面の男――葉山はこほんと咳払いをする。


「とにかく、あなたには私が主催するデスゲームに参加してもらいます」

「嫌だ」


 すると、俺を監禁していた部屋の扉が自動で開いた。


「拒否権はありません。早くこの部屋を出ないと」

「出ないと?」

「あそこの換気口からゴキブリの大群をこの部屋に投下します」

「わわ、わかった! 部屋から出ればいいんだな!?」


 俺は渋々部屋を出た。これまた薄暗い廊下を歩いて行くと、上の階へ続く階段があった。階段を登ると、普通の民家のリビングのようなところに出た。


「あら、アンタも参加者なの? 私は夏川留美なつかわるみよ」


 毛皮のマフラーをしてめっちゃ化粧の濃い姉ちゃんが話しかけてくる。


「全く……商談に遅れてしまうというのに……この田中克美たなかかつみ、一生の不覚……」


 腕時計ばかり見ているオッサンが貧乏揺すりをしている。


「ワタシ語学留学シテマス。チェンとイイマス。ヨロシクネ!」


 状況を理解しているのかわからない留学生もいる。


「あの……あなたの名前は?」


 部屋の端に座っていた髪の長い女性が話しかけてくる。


「俺は村上颯太。君は?」

「私は白石優実しらいしゆうみ。気がついたらここに閉じ込められていたの」


 白石さんと情報交換をしようとしたとき、リビングに設置されていたディスプレイがまたもやボオンと音を立てて映像を映す。なんだろうこの音、起動音かな?


「ようこそお集まりの諸君」

「いや、アンタに集められたんだよ?」

「これから君たちには殺し合ってもらう……ことはしない。力を合わせてここから逃げ出して欲しい」

「デスゲームじゃないんだ」

「いや、ある意味デスゲームだ……君たちには向こうの部屋に入ってもらいたい」


 あまりにも簡単な条件に俺たちは顔を見合わせる。


「そんなことで私たちをここに監禁しているというのか!?」


 田中とかいうオッサンが怒り出す。そりゃそうだ。


「しかし出られたら、の話だ」


 葉山はディスプレイの向こう側でクククと笑い声を漏らす。何でもいいから早く話を進めて欲しい。


「扉の向こうには、私が南米から輸入したバジリスクを閉じ込めておいてある。諸君には是非バジリスクを捕まえてきてもらいたいのだ」

「バジリスク、何デスか?」


 チェンくんが俺に尋ねる。何で俺なんだよ。


「バジリスクは、南米産のトカゲの名前だよ。それを捕まえるだけなのに何でこんなに大がかりなことを……」


 すると葉山はクックックッと画面の向こうで笑う。


「いやあ、私もそっちのバジリスクを輸入したつもりだったのだが、そうじゃないバジリスクだったみたいで……開封した父が石になり、父に駆け寄った母が石になり、あとはそっちの部屋に何とか閉じ込めてあるけどどうしようかなあと」


 葉山は頭を掻きながら「てへっ」を舌を出す。


「冗談じゃない!」


 俺たちは口を揃えて葉山に食ってかかる。


「何で俺たちがあんたの尻拭いをしなければならないだ!?」


 すると葉山は腕組みしながら話し始める。


「それでどうしようかなあと思ったんだけど、うちの前を通りかかった人を適当に捕まえて、身分証とか預かって代わりにバジリスク捕まえればOK、って思ってさ」

「思わないでください」


 白石さんも突っ込んだ。


「えー、じゃあ何? そのバジなんとかを捕まえないとうちら殺されるの?」

「ふざけるな!」


 なんか比較的話が通じそうな田中さんがキレる。


「そもそも殺し合いをしないなら私たちがこのゲームに参加する理由がない! 私は帰らせてもらうぞ!」


 すると葉山はクックックッとまた笑う。もうクックックッはいいよ。


「実は、皆さんが寝ている間にそれぞれスマートフォンを回収しておきまして、ちょっと中身を覗かせてもらいました。みなさん面白いアカウントをお持ちですね」


 その言葉に一同全員が固まった。


「夏川さんは定期的にエセ婚活情報で弱男チー牛連呼してインプレ稼ぎ、田中さんはドスケベ変態触手×ロリエルフ漫画の第一人者、革命を望むチェンさんのアカウントは本国に報告させてもらいましょう、村上さんはアカウントだけでなく運営サイト『隠された美』の魚拓を取らせていただきました」


 その場にいる全員がゲロでも吐きそうな顔をしている。


「ちょっと、何してくれてんの!!」

「頼む、後生だ、やめてくれ!!」

「マダ死ニタクナイヨ!」


 それぞれがアカウントと本人情報を紐付けられると、社会的に死ぬ。畜生、盗撮画像共有サイトなんか運営するんじゃなかった……!! そう言えば、白石さんは何をやったって言うんだろう?


「ところで彼女は一体何を……?」


 俺の疑問に葉山は首を振り、白石さんは頭を抱えている。


「それは私の口からも……出来れば本人から聞いてほしい……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 俺たちの視線が白石さんに集まる。一体この人の中にどんな闇があるっていうんだ!?

 

「とにかく、これらをオープンにされたくなかったら全力でうちのバジリスクを捕まえてきてほしい」

「わかりました!!」


 俺たちは一致団結した。よし、バジリスクを捕まえるぞ!!

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