『相談所』リプレイその1・元魔王軍配下

今日、アドバイスを乞いに現れたのは、一人の元魔王軍配下だった。ぼくはそれだけで心の底から震えあがってしまいそうになるが、曲がりなりにもぼくは神官だ。相手を怖がっていてどうする。


元魔王軍。かつての大戦の後、魔王は処刑され、その配下は各地に島送りとなったのだが、近年この村に戻ってくる者たちも現れた。それはとりもなおさず、国王が恩赦を発布したからである。彼もまたその一人だった。名は伏せてほしいとのことだったので、ぼくは日記といえど書かないことにする。


訊くと、職業斡旋所で紹介された、金魚飼育の仕事がうまくいかないという。ぼくは金魚には詳しくないのだが、望んでいる「色と形」が出ないというのだ。魔法を使えるとのことだったので、どうせならそのスキルで思うがままの金魚を生成してはと言ってみたものの、「魔法はしょせん魔法、被造物は大自然の法則に任せるのがいちばん」とのこと。ちなみに、「らんちゅう」という、よちよちと泳ぐ頭でっかちの金魚を赤ちゃんから育てているそうだ。そういえばぼくも子供の頃、夏休みの屋台で金魚すくいをした覚えがある。あの時の金魚は結局川に流してしまった。今思えば可哀そうなことをしてしまった。


考えが伝わったのか、彼も怪訝な表情を見せた。気を取り直さねばなら

ない。

ぼくは思い出したように、魔法電話をとる。国直属の図書館(数京冊を所蔵している)に問い合わせてみることにしたのだ。あいにくPCは調子が悪い。

照射された魔方陣のボタンを押してゆき、司書さんに問い合わせてみる。


「相談所の一徹です。金魚の育て方、あるいは血統や品種、もしくは特定の種類の育て方などの本はありますでしょうか」


「金魚ですね。…はい、ございます。種類などは?」


「らんちゅうです」「らんちゅうを」


ぼくと彼が同時に言う。目が合って微笑みあう二人。


「らんちゅうでしたら、『らんちゅう:目指せ横綱』『品評会によるらんちゅう血統について』の魔術版書籍、他物理版書籍が数冊ございますが、どれをご所望ですか?」


相談者の彼はしばらく考え込んだ後、


「とりあえず魔術版書籍のものをすべてお願いします」


「かしこまりました。では、アーカイヴにお届けします。……どうですか?」


「確かに頂きました。ありがとうございます」


その後、彼は魔方陣を展開して本をしばらく眺めていたが、「おお、これは!」とか、「なんてこった、そんな簡単なことを俺は…」などと言ったり、ともかく大満足の様子だった。


「ありがとうございます。これで一層仕事に身が入りそうです」


一度は魔王軍に属していたとしても、一人の大切な「存在」だ。

ぼくは彼に祝福を与え、彼も何度も何度もお辞儀をして帰っていった。


ーーー 本日の日記より ーーー

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