邪馬台国の女王がロボットに乗って戦う話

けろよん

第1話 女王現る

 202X年地球はエイリアンの侵略を受けた。飛び交う破壊兵器やモンスターの群れ。日本を救えるのは彼しかいない。

 パイロットスーツに身を包み、精悍な青年は颯爽と歩いていく。敵を倒す。その強い覚悟に瞳を燃やして。


「俺が奴らを駆逐してやる! 博士の開発してくれたこのスーパーロボットで成し遂げてみせる!」

「お兄ちゃん、頑張って!」

「日本の平和は任せたぞ!」

「ああ、行ってくる!」


 妹の美彩とロボットを開発した科学研究会の会長をしている博士に見送られ、慎介はロボットに乗り込もうとする。その時だった。


「あれー、空の様子がおかしいよ?」

「何かがジャンプしてこようとしている? スマホで録画しておこう」


 異変に気付いた美沙が空を見上げ、博士がスマホを持ち上げた。慎介も足を止めて空を見上げた。するとそこに巨大な城のような物体が現れた。


「なんだありゃ!? 敵の浮遊城か?」

 

 さっきまでは無かったはずだ。それがぐんぐんと近づいてくる。

 足を止めてなすすべもなく見上げていたのが致命傷となった。無視して早くロボットに乗り込んでおけば対処ができたはずなのに。

 城が降ってきて慎介は死んだ。


「うぎゃー!」

「お兄ちゃーーん!」

「これは事故だな。録画しておこう」


 もくもくと立ち込める土煙。立ち尽くす美沙とスマホで録画を続ける博士。城の扉を勢いよく開けて現れたのは古風な和の装いをしたちっこい少女だった。


「ふむ、到着したか。ここがわらわの支配するのにふさわしい世界じゃな!」

「よくもお兄ちゃんを! 死ねええええ!」


 美沙にとっては相手の正体など関係ない。許せない敵が現れたのだから戦うだけだ。 兄のように。

 包丁を構えて彼の仇を討とうと走ったが、


「ふん、気安くわらわを殺せると思うでないわ!」

「ぐげええええ!」


 少女が腕を振って魔法のような物を放つと吹っ飛ばされて倒れてしまった。

 彼女はいかような術を使ったのか、ただの人間ではないようだ。

 博士はもう少し冷静で興味に目を光らせてスマホで録画を続けながら訊ねた。


「失礼ですが、あなた様はどちら様ですか?」


 丁寧な態度に少女も敵対する意思を収めて答えた。


「なんじゃ、わらわの事を知らんのか? わらわは邪馬台国の女王卑弥呼じゃ」

「えー、あの邪馬台国の!?」

「なんだ知っておるのではないか。あそこも飽きてきたからのー。弟に任せてより良い世界を求めて祈祷を行い、精霊の力でワープしてきたのじゃよ」

「ほう、ワープですか」

「それにしても」


 卑弥呼はそこで話を切って城が降ってきてもまだ直立したままのロボットを見上げた。


「これはなかなか立派な像じゃな。わらわの国でもこれほどの物は見たことがないぞ」

「これはロボットというものですよ。今空を飛びまわってるエイリアンを退治する為に造った搭乗兵器です」

「これが乗って動かせるというのか? 馬や牛車のようにか?」

「ええ、残念ながらパイロットが死んでしまいましたが」


 のんびり話していると気づかれたようだ。エイリアンが奇声を上げて攻撃してくるが、卑弥呼が呪符を持つとバリアのような物が展開されて反射して逆に落ちていった。


「あの羽虫どもはエイリアンといったか。では、うっとうしいからわらわが退治してきてやろう。わらわが乗っても構わんのだろう?」

「ええ、お好きなようにどうぞ」


 博士に促され卑弥呼がロボットに向かおうとする。そこに美沙が起き上がって叫んだ。


「馬鹿ね! そのロボットはお兄ちゃんじゃなきゃ操縦できないのよ! その為の訓練だっていっぱいしてきたんだから!」

「馬鹿はお前じゃ。これは人が乗るように作られた物なのじゃろう。ならばやりようはある。わらわに不可能かどうか。その目でよく見ておくのだな」


 卑弥呼は不思議な力で宙に浮くとロボットのコクピットへとふわりと収まった。周りにあるのは不可思議な計器類だが、分からなくとも目的を持って作られた物なら感じることはできる。


「わらわの知らない未知の装置か。じゃが、分からずとも敵を倒す力だと言うのなら聞かせればよい。力よ目覚めよ」


 卑弥呼が精霊の力を送り込むとロボットは自然と起動して空を飛ぶ敵の姿を見上げた。


「いいぞ。お前は主人の分かる奴だ。わらわの為に手足となって働くがよい」


 命じて力を送ればそれだけでもロボットは動く。だが、操縦幹を握って操作してやった方が本来の目的を果たせるだろう。


「お前もその方が嬉しかろう? 行くぞ」


 卑弥呼がレバーを引いてペダルは足が届かなかったので念を飛ばして押させるとロボットは飛びたっていく。美沙は呆然となって博士に詰め寄った。


「おかしいよ! あれはお兄ちゃんじゃないと動かせないんじゃなかったの!?」

「だと思ったんだけどね。何でもいいよ、敵を倒せれば」


 美沙は納得できなかったが、博士の呟きは全人類の総意だったかもしれない。

 空でエイリアンとの戦いが始まった。

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