第42話 自分の過去を語るレオニード

 医療施設の療養室で、レオニードとヨナが会話していた。


「お医者様の話では、もうしばらく安静にしていれば動けるようになるとのことです。命に別状が無くて、本当によかったです」


「アンナちゃんがあの場ですぐに回復魔法をかけて手当してくれたおかげだよ。あのまま放置していたら、間違いなく死んでいたからね」


「私の回復魔法では、あそこまで治せなかったと思います。おそらく、彼女はあの研究所で古代の魔法を調べていたから治せたのだと思います」


「そうだね。古代の魔法は、現代の魔法に比べて強力だったと言われてるしね。君も後で彼女に教えてもらうといいよ」


「そうですね。それはそうと、レオニード様。ミリエラ様から、レオニード様はワイズマン家の出身だと聞きました。ワイズマンといえばノースウエスト地方の名家です。レオニード様は家をお継ぎにならないのですか?」


「ああ、僕は大人になる前にあの家を飛び出してしまったんだ。だから、今は僕の兄が家を継いでるはずさ」


「家出していたのですか?」


「そうだよ。だからあの家に戻るつもりはないんだ」


「レオニード様に家を出る決意をさせるような出来事があったのですね?」


「まあね。ちょうどいい機会だ。少しだけ、僕の身の上話を聞いてもらおうかな。いずれ君には話しておこうと思っていたし」


「レオニード様が私にお話していただけるのなら、是非聞きたいです。お願いします」


 レオニードは自身の過去を語り始めた。


 レオニードは地方貴族の名門ワイズマン家の次男として、父親から兄と同様に英才教育を受けていた。


 ある日、レオニードは父がとある男に拷問を行なっている現場をのぞいてしまう。


 レオニードの父は、その男が口を割らないことを知ると、家来に命じて男の家族を連れて来させた。


 そして、彼の家族と娘にも拷問を加えていった。


 レオニードは、自分の父親が、当時の自身よりも年下だったその男の娘に、冷酷に拷問を加えていたことに衝撃を受けた。


 そして、彼はワイズマン家を飛び出したのだ。


「拷問の対象者を自白させるために、そいつの家族や知人が拷問を受ける姿を見せるのが効果的なのは、当時の僕も知っていた。だが、実の父親がそれを行なっているのを実際に目の当たりにした時、目の前が真っ暗になってしまってね。僕は怖くなって逃げ出したんだ。自分でいうのもなんだが、当時の僕は純粋すぎたんだ。自分の手を汚すことも出来ない、出来損ないのダメ息子だったのさ」


 こうして家を飛び出して自暴自棄になっていたレオニードに、とある冒険者の女戦士が手を差し伸べた。


 このローラという名前の女戦士は、女神からミッションを与えられており、女神の指定した特定のモンスターを討伐しているとレオニードに語っていた。


 彼女によると、女神のミッションを全て達成すると、なんでも好きな願いが叶えられるとのことだった。


「ま、当時の僕は話半分に聞いていたんだけど、この間の戦いの最中に天使がやってきて、俺たちに手を貸してくれたって聞いたから、ローラの話は案外本当だったのかもしれないな」


「天使様が実在したから、女神様だって本当に存在するかもしれないってことですね」


「信じがたいことだけど、そういうことになるね。話がそれた。それで、僕はローラから、戦闘の基礎をみっちり叩き込まれたんだ。ローラは戦い方だけじゃなくて、生きていくために必要な情報やスキルもたくさん教えてくれた。でも、彼女は自分のことには本当に無頓着で、僕の前でも平気で裸で過ごしていたよ。動きづらくなるからと言って、戦う時ですら、ほとんど服を着ていなかったからね」


(レオニード様が変態になったのは、彼女の影響なのかしら?そういえばメローネ様も昔裸で過ごしていたとか言ってたな……)


「そして、僕はローラの身の回りの雑用をしながら、しばらく彼女の冒険の手伝いをしていたんだ。その後、彼女はこの国にいた女神の指定したモンスターを討伐し終えたので、別の国に行くことになった。その時に彼女とは別れて、僕はこの国に残った。そして、本格的に冒険者として活動を始めたんだ」


「レオニード様は元冒険者だったんですね」


「新月の教団に入るまではね。それで、僕が冒険者としての生活に慣れてきた頃、マテウスに出会ったんだ。あいつは、ガキの頃の僕みたいに純粋な奴だった。俺は貴族だったけど、今は、貴族だとか生まれだとか、そういうのは関係なく、誰もが対等に暮らせる世界を作るのが夢で、そのために、俺は新月の教団にいて、信者たちとそのための準備をしているんだって話していたんだ」


「マテウス様とは冒険者時代に出会っていたんですね」


「そうなんだ。初めはマテウスの言うことなんて、本気にしてなかった。でも、そんな話をマジな顔で話すあいつを見ていて、こいつなら本当にできるんじゃないかって思えたんだ。だから、僕はこの教団に入信したんだよ」


 話に夢中になったレオニードは身体を起こそうとするが、痛みで起き上がることが出来なかった。


「無理をなさらないでください。レオニード様、今は自分の身体を治すことに専念してください。そして、動けるようになったら……また……私のお尻をいっぱい触ってくださいね」


 そう言うと、ヨナはレオニードの手を取って、手の甲にキスをした。

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