第15話 スクネを守ってくれて、ありがとう

 街の宿屋でクロウドが寝静まってから、アロウラはウーツ鋼のナイフの手入れをしていた。


 アンナがアロウラにコーヒーを差し出して、話しかける。


「そのナイフ、よほど気に入ったようね」


「まあね、ウーツ鋼っていう、珍しい素材で出来ているの。ほらみて、刃に縞模様があるでしょう」


 アロウラはナイフの縞模様をアンナに見せる。


「へえ、綺麗な模様があるのね。確かに珍しいものだわ。それで、これを槍に加工するんでしょ?私が手を貸そうか?クラフトの魔法で元の槍の刃を溶かして溶接すればいい?」


「うーん、それだとあくまで応急的な感じかな?ウーツ鋼の方が強度が高いから、この槍の刃の素材だと、溶接部分が長く持たないと思う。もっといい素材を手に入れて、改修する必要があるわ」


「詳しいのね」


「まあね。私、古代の遺跡や、そこから出た出土品が好きなの。このウーツ鋼もね、製作方法がわからなくなってしまって、もう誰も作ることが出来ないから、ロストテクノロジーの産物とかオーパーツって呼ばれているのよ」


 アロウラはナイフを照明のランプに掲げて、光で変化する模様の輝きを眺めながら答えた。


「へえ、そうなんだ。ところで、昼間、後ろをつけてた人物に会ったんでしょう?どうだったの?」


「ああ、メローネっていう牛娘のような見た目の女の子だったの。新月の教団っていう宗教団体の幹部だっていってたわ。教団の指示で私たちの里の長老を監視してたみたい」


「新月の教団って、何年か前にこの国で流行った宗教団体よね?なるほど、その子はそこの諜報員だったのね」


「ええ、気配を完全に消して、私たちが彼女を認識出来なくなるような能力を使っていたわ。それで、彼女が私たちの後をつけているのも、私たちはわからなかったみたい。あの子、ネイチャリストみたいで、ちょっと変わっていたのよねえ。服を着ていないのが普通みたいな感じで困ったわ。あ、そうそう、彼女、あなたが長老を殺すところもみていたみたいよ」


「そういうことだったの。気配を完全に消せるっていうのは厄介ね」


「彼女が、私たちのことを教団に報告すると、間違いなく教団は私たちに何らかのアクションを起こすと思うけど、どうするの?」


「どうするって、私たちが教団のやつらを利用できるなら、利用してやればいいし、彼らが私たちに敵対するのなら、返り討ちにするだけよ」


「あはは、アンナらしい答えだわ。それを聞いて安心した」


 アロウラはいつも通りの答えが返ってきたことに安心して、アンナの持ってきてくれたコーヒーに口をつけた。


「ところで、あなたの身体は大丈夫なの?」


「ああ、さっきスクネにたくさんハグしてもらったから大丈夫よ。スッキリしているわ」


「そう。それならよかったわ」


「それより、どうして北の果てまでいくの?確か、あの辺は金の鉱山以外には何もない所でしょう?金を手に入れてお金に換えるの?」


「あの辺り一帯はね、金の他に、蛍石っていう魔道具の素材が取れるの。その中にお目当ての触媒がないか、確認しにいくのよ。それに状態のいい蛍石は魔道具職人にとって、喉から手が出るほど欲しい素材だから、上手くいけば良い魔道具と交換することも出来るわ」


「蛍石か。聞いたことがあるわ。確か、魔石の原料にもなっているのよね?それを手に入れるってわけね」


 蛍石に魔力を流し込むと様々な効果を発揮するため、魔道具職人の間では魔道具の素材として非常に人気がある。


 しかし、この国では、蛍石の価値はあまり知られておらず、金を採掘した時に出る副産物としかみなされていなかった。


「北の鉱山までは結構遠いから、旅支度をしっかりとしてから出発した方がいいわね。それと、明日一度バギーの試運転もしましょうか。まずはあれが動かないと先に進めないからね」


「動くといいわね、バギー」


「動いてもらわないと困るわ。昼間だと目立ってしまうから、夜中にこっそりやるしかないわね」


「それはそうと、アロウラ、今日はありがとう」


 アンナはアロウラを後ろからハグする。


「えっ、ちょっと、アンナ。胸がダイレクトに当たってるよ。どうして服を脱いでるの?」


「スクネを守ってくれたお礼よ。どうもありがとうね」


 そういうと、アンナはアロウラをもっと強く抱きしめた。


(もう、アンナってば、ずるいよ。こんなことされたら、誰だって好きな気持ちが我慢できなくなるに決まってるじゃない……)

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