第87話 目玉商品

「キリプロのコンテンツが充実してきたな」


マンスリーマンションの一室で、景隆はユニケーションを操作しながら言った。


霧島カレッジで使われているeラーニングのサービス『グロウ』の教材の一部は、ユニケーションにも登録されている。

グロウの教材の著作権は霧島プロダクションにあり、ユニケーションでは霧島プロダクションのアカウントでこの教材が登録されている。


霧島プロダクションが提供する教材は、音楽の初心者向けに、ギターやドラムなどの楽器の演奏方法から、ボーカルのためのボイストレーニングまで、多岐に渡っている。

そして、より上を目指したい場合は、霧島カレッジに入学を促す流れが用意されている。

したがって、これらの教材はベータテストを終えても無料で提供される。

この楽器演奏に関する教材が、芸能界入りを目指さない一般人にも受け、多くのユーザーが受講している。


ほかにも、グルメ番組などに出演している俳優の川奈が料理講座を提供しており、これが主婦を中心に人気を呼んでいる。


「インターネットサービスはコンピューターに精通していないと使いこなせないというイメージがついて回るが、芸能人がやっていることでこのハードルが下がるな」


柊は講座受講者のパーソナルデータを確認していた。


この時代ではスマートフォンがないため、主要なインターネットサービスを使うにはPCが必要となる。

IT関連が苦手と公言していた川奈がこのようなサービスを使っていることで、心理的なハードルが下がっていることがデータから確認できた。

川奈の講座に登録しているユーザーは、ほかのユーザー層と比較して、性別や年齢層などに有意な差が見られたためだ。


「神代さんの教材はこれからなんだよな?」

「あぁ、映画の撮影がもう少しで終わるから、それからだ」

「めっちゃ楽しみだな」


神代がアクシススタッフのCMに出演していたときは、見事な講師役を務めていた。

教材の人気ランキングでは間違いなくトップになると景隆は見込んでいる。


「映画のコラボレーションもあるからなぁ。システムがパンクするんじゃないか……」

「お前が睨んでいたとおり、映画は売れると思う」


柊は映画『ユニコーン』の脚本を監修をしたり、演出用のシステムを担当していた。

ハイライトシーンの撮影所では相当な手応えを感じていたようだ。


「映画のコラボレーションの内容を詰めないとな」

「夢幻の撮影所と撮影時の衣装はそのまま使えるらしいぞ」

「マジか!? 映画を観た人は登録してくれる可能性が高いな! 教材の中身はどうするよ?」

「映画に関係があるものがいいだろうな」

「キーワードを挙げてくれ」

「IT、起業、ベンチャー、資金調達、企業買収、サイバー攻撃」

「企業買収はさすがにないな」

「俺の時代でも、さすがにeラーニングで企業買収の方法を教えてはいなかった」

「起業は?」

「行政書士に監修してもらったりする必要があるから、かなりコストと時間がかかりそうだな。

そもそも起業したい人がどれだけいるのか……」

「サイバー攻撃は見せ場なんだっけ? さすがに攻撃方法を教材にはできないな」

「となると、セキュリティ対策になるだろうな」

「実用的だな。新田に監修してもらえば技術的な問題はクリアできるだろう」


景隆と柊は映画とのコラボレーション企画を練っていた。


「助演の美園さんにも出てもらいたいな。どんな人なんだ?」

「あぁ、それは――」


景隆は助演女優の美園について、柊から情報を得た。


「じゃあ、こんなのはどうだ?」

「――ええっ!」


景隆が提示した突拍子もないアイデアに、柊は驚いた。


「……まぁ、聞くだけ聞いてみるよ」

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