第37話 思惑

「もう、全然聞いてないことばかりでしたよ」

長町はふてくされた声をしながらも、明るい表情で言った。


霧島御用達のこの料亭では、霧島が資本提携の交渉参加者をねぎらっていた。

翔太がこの店に入ったのは、映画『ユニコーン』のオーディションの打ち上げ以来、二度目だ。


「機密事項が多すぎて、事前に言える情報が少なかったのよ」


橘は長町に説明した。

長町には、資本提携のためにMoGeのゲームに出演してほしいとだけ伝えていた。

長町はでそれを受けていた。


「それにしても神代さんの交渉は見事でしたね。私の出番が全然なかったですよ」

吉野は感心していた。


「今撮影している映画の似たようなシーンがあるんです」

「それにしても、グリーンシートの株価まで押さえているなんて……公認会計士でもなかなかいないですよ」


神代はちらっと翔太を見たが、慌てて目をそらした。

翔太のについては、長町と吉野には伏せてある。

吉野は神代の視線に気づかなかったが、長町は見逃さなかった。


「長町もごくろうだった。あれでうちの言い分が通ったよ」

霧島は上機嫌だった。

霧島カレッジの卒業生のキャリアパスを作ることを霧島は重要視していた。


「はい、私も後輩には活躍してほしいですし……それに――」

長町はちらっと翔太を見たが、今度は神代が見逃さなかった。


「そういえば、柊さん、アストラルテレコムから資金調達しているなんて……びっくりしました」

長町は話題を反らしながらも、一番聞きたかったことを翔太に尋ねた。


「そうだよ……今度はどんな魔法を使ったの?」

神代も興味があるようだ。


「そうですね、アストラルテレコムは国内でも三本の指に入る時価総額です。

そんなところにコネがある人なんてそうそういないですよ」


吉野も翔太に相当驚いていたようだ。

アストラルテレコムは国内トップの時価総額に躍り出たこともある。

しかし、将来はスマートフォンが主流になり、勢いが落ちていくことを翔太だけは知っている。


「そんなに……」「そこまでなんだ……」

神代と長町はしきりに感心していた。


「アストラルテレコムは映画のスポンサーにもなっていただいています。

そのときも柊さんが動いていたので、そのツテを使ったのではないでしょうか」

橘がズバリと正解を引き当てた。


「あぁ、あのときの……」「なるほどな」

神代と霧島は合点がいったようだ。


「そうですね、同じ人に動いてもらいました」

翔太は姫路の名前を出さないほうが良いと判断した。


「先方にとってもGPSを使うことで利害が一致していたので、比較的スムーズに決まりました」

「そのGPSに関しては柊が持ちかけたんだろ?」

「ま、まぁ、そうですね」

今度は霧島に言い当てられた。


「資本提携が実現したことで、当事務所がゲーム製作に関与できることは大きいですね」

「どういうことですか?」

「所属タレントのプロモーションに利用できるんだよ。

たとえば、Pawsの全国ツアーに訪れたらゲームで何らかの報酬を与えたりできる」


神代の質問に翔太が答えた。

Pawsは霧島プロダクションに所属する超人気アイドルグループだ。


「なるほど! GPSを活用してってことね!

Pawsのファンがゲームを買うことにもなるし、ゲームのユーザーがPawsのコンサートに行くようになるってことね!」


「Pawsはプロモーションしなくても集客できるので、売出中のタレントに使いたいですね」

「そうだな」

霧島が橘に同意した。


「そうすると、私も除外されるんですかね……それは残念」

自身の人気を自覚している長町は、本気で残念そうだった。


「長町さんはゲームのプロモーションに大きく貢献しますから、出番はあると思いますよ」

「本当ですか!」

長町は翔太に食いつくように反応した。

気のせいか、神代の機嫌が悪くなったように見える。


「『ユニコーン』とのコラボで、ゲーム内でロケ地を聖地巡礼するのもよさそうですね」

「いいね!」

怖くなってきた翔太は中和する案を提示し、神代が食いついた。

(なんでこんなことになってるんだ……)


「柊もやりたいことがあるんじゃないか?」

霧島が図星を突いてきた。


「う……実は――」

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