第15話 初陣
「おぅ、お前が石動か?」
(ヤ○ザの親分)
それが、景隆が霧島に抱いた第一印象だった。
ちなみに、霧島プロダクションは反社会勢力ではない。
霧島は、そのパンチパーマとやや色黒の肌が特徴的な霧島プロダクションの社長である。
彼は新たな才能を見出し、育成することに情熱を傾け、数多くのタレントを輩出してきた。
「俺のことは霧島でいいぞ」
「株式会社翔動の石動と申します」
景隆は名刺を差し出して挨拶した。
霧島プロダクションの社長室では、ミーティングスペースが併設されている。
この社長室で、霧島プロダクションが運営するタレント養成所『霧島カレッジ』についてのミーティングが行われている。
「スターズリンクプロジェクトについては聞いているかな?」
「はい、伺っております」
タレント養成所『霧島カレッジ』の所長である宇喜多の質問に石動が答えた。
スターズリンクプロジェクトは、分散している霧島カレッジ拠点を1箇所に集約するプロジェクトだ。
「これに合わせて、各コースでばらばらに管理されている情報を一元管理したいと考えているんだ」
霧島カレッジでは、候補生のプロフィールや出欠、成績などがコースごとで管理されており、宇喜多が全体像を把握できない問題を抱えていた。
「はい、弊社が開発を進めているLMSをご検討ください」
景隆は自社製品のプレゼンテーションを始めた。
「LMSって何ですか?」
神代が質問した。
神代は映画『ユニコーン』の役作りの一環で、この場に参加している。
映画では、神代演じる的場が起業する場面があるため、似たような状況にいる景隆を見本にしたいとのことだった。
そのため、神代は景隆の一挙手一投足を注意深く観察しており、これが景隆にとってはかなりのプレッシャーとなっている。
「LMSはLearning Management Systemの略で、学習管理システムとも呼ばれます。
カリキュラムや教員、受講生のデータを一元管理できます」
景隆は資料をプロジェクターに投影しながら説明を続けた。
「例えば、教師が出した課題などはすべてこのLMSで管理されます。
この課題に対して生徒の提出状況やスコアが記録されるため、学習状況を一望することができます。」
画面には、サンプルの課題に対して、課題の提出有無や得点が可視化されて表示されている。
宇喜多は「おおっ」と声を上げながら、熱心にそれを見ていた。
「質疑応答は可能ですか?」
「はい、テキストによるチャット機能があり、質問内容は受講生間にも共有できる仕組みになっています。
eラーニングの機能が備わっているため、講義の録画や録音を任意のタイミングで視聴できます」
名取の質問に景隆が答えた。
名取は霧島カレッジの声優講師であり、自身も現役声優だ。
「伸びそうな候補生を予測する機能があるんだよな?」
霧島は柊に言った。
霧島カレッジでは生徒のことを候補生と呼ぶ。
「はい、機械学習という手法を使って、候補生の属性や実績のデータなどから数字に現れないような、才能を発掘できる可能性があります」
この時代において、柊が使っている機械学習のモデルはオーバーテクノロジーだが、そのことを知っているのはこの場では景隆だけだ。
「まずは声優コースで導入しようと考えている。
新たな科目も加わるし、これの評価をするという点でも都合がいいだろう。
名取はどうだ?」
「はい、候補生の音声データを管理できるようなので、ぜひ使ってみたいと思います」
霧島の問いに対する名取の反応は前向きだった。
景隆はほっと胸をなでおろした。
***
「ふー、緊張しました」
本社ビルの休憩室に移動した景隆は脱力していた。
「おつかれさまでした。
心配しなくても、霧島は柊さんのことを信頼しているので、まとまると思いますよ」
橘の発言で、景隆は「そうですかぁ」と安堵した。
「演技の参考になった?」
柊は神代に聞いてみた。
「うん、石動さんの緊張感が伝わってきたし、オーディションのシーンとは演技を少し変えたほうがよさそう」
「そうだね、最初は石動のような場馴れしてない感じを入れたほうが、主人公の成長が際立ちそうだね」
「おぃおぃ、本人を目の前にして……ってそのとおりなんだけど」
「ふふふ、石動さん、梨々花のためにありがとうございます」
「こちらこそ、できたばかりの会社にビジネスチャンスをいただいて感謝しています」
自分の仕事ぶりが大物女優に観察されることでかなりやりにくかったが、神代とのコネクションができたのは大きかった。
***
「新しいサービスを始めようと思っています――」
景隆は神代と橘に対して、切り出した。
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