俺と俺で現世の覇権をとりにいく

第14話 禁じ手？

ℹ️─────

専門用語が色々出てきますがスルーでOKです、気になるかたは脚注を参照してください

─────✍

「株だ」

「本気か？……」

柊は景隆が言いたいことを瞬時に理解したようだ。

「俺が、今の時点で証券口座を持っているのは知ってるよな？」

「あぁ、覚えている」

「今の俺は下手の横好きで株を買っているわけだが、柊なら無双できるだろ」

景隆は、柊なら未来の株価を知っているので、簡単に勝てると思っている。

「タイムリープ物のフィクションだと、タブーだけどな」

「推理小説なら、タイムマシーン使って犯人当てるみたいな感じだな」

「以前に柊は『金を稼ぐ方法はいくつか考えられる』と言った。

これも含まれるんじゃないのか？」

「まぁ、大方はそれで合っているが……」

「なにか引っかかることがありそうだな」

「まず、俺にとって今の株式市場はかなり昔なので、個別銘柄のことはさすがに覚えていないな……当時話題になっていた銘柄はあるにはあるが……」

柊は深く考え込んだ。当時を思い出しているのだろう。

「バタフライ効果って知ってるか？」

「まぁ、概要なら……すでに影響があるのか？」

バタフライ効果とは、わずかな変化で状態が大きく異なってしまうという現象だ。

柊の存在により、株式市場にも変化が現れている可能性がある。

「そうだな、サイバーフュージョンが将来上場するんだが、その初値は俺が知っている価格より高くなると思う」

「へぇ、上場するのかー……これもインサイダー情報 ※1 だな」

「CFの上場はクランクアップまでに間に合わないと思うぞ」

「残念……でも上場するのがわかっているなら、どこかで資本提携できないかな」

「まぁ、それは追々だな……そもそも分不相応だが……そっか、未上場企業ならグリーンシートが使えるかも」

「なにそれ？」

「非上場会社の株式を売買するための制度だ。未来ではなくなってしまうがな」

「上場していない会社に投資できるのか」

「あぁ、そうだ。普通にやったらリスクが高い」

「でも柊なら上場する銘柄がわかってるってことか」

「そうだな……バタフライ効果次第だが」

「それと、ロックアップ期間というのがある」

「なにそれ？」

「上場時に既存株主が一定期間、株式の売却を制限されるんだ。

既存株主はベンチャーキャピタル ※2 などの大株主が多いから、上場後すぐに売ってしまうと株価への影響が大きいためだ」

「なるほど、どれくらいの期間なんだ？」

「九十日だと思う、ちゃんと確認する必要があるが」

「上場までの期間に九十日を追加するのか……クランクアップまで間に合うかは賭けだな」

「資金の全額をグリーンシートに投資するのはやめておこう」

「あぁ、賛成だ」

「あとは正攻法でやるしかないか」

「正攻法って？」

「ちゃんと真面目にトレードするってことだよ、若干チートは入るが」

「チートの部分が気になる」

「未来のノウハウを使って、アルゴリズムトレードをするんだ」

「アルゴリズム？」

「今の時代では人間が裁量で買ったり売ったりしているが、未来では機関投資家はプログラムで自動売買しているんだ」

「プログラムに任せると何かいいことがあるのか？」

「まず、発注スピードが違う。マーケットメイク ※3 や裁定取引 ※4 をやる場合にはこれが大きくなる」

「なるほど」

「上下の値動きを裁量で取りに行く場合も、データを元に機械的に売買することで、人間が持つ感情的な弱点を排除できるんだ」

「持ち株が暴落すると、冷静な判断ができなくなるもんな」

「株だと、国内の証券会社では自動発注できないから……為替でやってみるか」

「FX ※5 か」

「それとデリバティブ ※6 だな」

「先物 ※7 をやるってことか？」

「先物のほかにオプション ※8 も含まれるが、そっちは複雑なので後で話そう。

株と違って資金効率がいい」

「レバレッジ ※9 がかかるからか？」

「それもあるが、金利がかからない分、ロングしてもショートしてもコストが安くなる」

ロングは買うこと、ショートは売ることを指す。

「それと、中国や新興国の需要もあってコモディティ ※10 ――商品の時代がくる」

「乗れるものは全部乗っておきたいな」

景隆は貪欲に言った。

「デリバティブをやる場合は海外の証券会社を使うほうがいいな、そうすると自動発注も可能だ。

口座開設や海外送金の手続きもあるので、まずは国内でできるFXにするか――」

二人による悪巧みは深夜まで及んだ。

⚠─────

※1 インサイダー情報: 上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た会社情報

※2 ベンチャーキャピタル: 未上場の新興企業に出資する投資会社やファンド

※3 マーケットメイク: 常時「売り気配」と「買い気配」を提示し、相対取引を基本に売買を成立させる方法

※4 裁定取引: 同一の価値を持つ商品の一時的な価格差（歪み）が生じた際の利鞘を取る取引

※5 FX: 外国為替保証金取引

※6 デリバティブ: 金融商品から派生した金融商品

※7 先物取引: 商品の購入時期よりも前に価格を定めて取引を成立させる売買方法

※8 オプション取引: 決められた期日にあらかじめ決められた価格で、対象商品を｢買う権利」や｢売る権利」を売買

※9 レバレッジ取引: 口座に預け入れた証拠金を担保に、何倍もの金額を取引する取引方法

※10 コモディティ取引: 金属（金・銀・銅等）や原油、小麦、天然ガスなどを商品先物市場で売買する取引