第6話 会社設立

※ 前半は読み飛ばしてOKです、興味ある方だけ読んでくださいw


「やることが……やることが多い……!!」

景隆は会社設立に向けて奔走していた。


必要な書類は柊が作成していたが、役所への手続きは景隆が出向いて行った。

柊によると、傷害事件に巻き込まれて入院したため、休みが取れない状況とのことだった。

(何やってんだアイツ……)


景隆の人生では法務局などに用事があることはなく、新鮮だったため、役所に行くことに抵抗はなかった。

――と、このときは思っていた。


会社名が決定したため、まずは印鑑を用意した。

柊曰く、将来は電子署名が主流になるため、物理的な印鑑は何でも良いとのことだ。

景隆はネットで安い印鑑を注文した。


「区役所に行ってくれ」


設立する会社の代表印と、代表者である景隆の印鑑証明書が必要となるため、区役所で印鑑証明書を取得した。


次に定款の作成を行った。

定款には会社の商号や所在地、事業目的などが記載されており、公証役場での認証を受ける必要がある。

定款の認証手数料は高額だが、電子定款にすることで収入印紙代を削減できた。

定款認証には、実質的支配者となる者の申告書が必要となり、これは景隆が該当する。


次に資本金の払込を行った。

この時点では法人口座が開設できていないため、個人名義の口座に振り込みを行う必要があった。

景隆が用意した新規の銀行口座に、景隆と柊が資本金を振り込み、この預金通帳の写しを証明書に添付する。


「次に法務局だ」


柊が用意した登記申請書を元に、法務局へ登記手続きをした。

柊によると、将来は登記手続きがオンラインでできるとのことだったが、景隆は法務局に出向いた方が会社を設立している実感があった。


登記申請書、定款、印鑑証明書、払い込みを証する証明書などを法務局に提出した。

この日をもって、『株式会社翔動』が設立された。


「次は税務署だ」


次に税務署の手続きを行った。

法人設立届出書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書、青色申告の承認申請書などを提出した。


「くそめんどくせー……」

国税では必要な書類が多く、柊が用意したとはいえ、景隆は辟易していた。


「次は都税事務所だ」


国税のほかに市区町村税の手続きがあるため、都税事務所に事業開始(廃止)等申告書を提出した。


「次は年金事務所だ」


次に年金事務所の手続きを行った。

当面は景隆一人であるため、健康保険・厚生年金保険新規適用届を提出した。


***


「おつかれさま」

景隆の家でジョッキが触れ合う音が響いた。

創業者二人だけの、ささやかな設立パーティが行われた。


「ふー、会社作るのってマジでめんどくさいのな……」

「これはまだマシなほうだ。決算とか税金関連はさらにめんどくさい」


「げ……マジか……確かに税務署の書類がやたら多くて意味わからんかった」

「稼げるようになったら、税理士の先生にお願いすることにしよう」


「ホント、そうしてほしい……これなら仕様書を書いたほうが何倍も楽だよ」

「まぁ、慣れだよ。税金の仕組みがわかると、色々と社会の面白いところがわかってくるぞ」


「場所はここでよかったのか?」

景隆が言った『場所』とは、登記上の本店所在地だ。

株式会社翔動は景隆の住んでいる賃貸アパートの一室で登記されている。


「あぁ、賃貸借契約書で禁止されていなければ問題ない。

当面は郵便物の受取ができることと、電話番号があればいいんだ」

柊は景隆の賃貸借契約書を確認していた。


柊はバーチャルオフィスを検討していたが、この時代においてはほとんど存在しないことがわかった。


「まぁ、事業が軌道に乗ったらオフィスを用意してもいいし、社宅を用意するのもありだ」

「社宅があると、何かいいことがあるのか?」


「経費になるので法人所得税が抑えられるんだ。

従業員にとっても家賃分の所得が減るので節税になる」


「会社も従業員も得できるのか!なんで皆やらないんだ?」

「会社の事務コストとか、敷金とか礼金とかの初期コストとかかな……」


「自分の会社だったらやったほうがいいってことだよな」

「そうなるな。税金のことを知ると面白いだろ?」

「確かに」


柊は、誰よりも景隆のことを理解しているため、上手く丸め込まれる可能性がある。

(気をつけないと……)


「それで、仕事の当てはあるのか?」

景隆は自分の会社が柊に依存していることにもどかしさを感じていたが、今は我慢することにした。


「あぁ、あるぞ」

柊は即答した。

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