第2話 運命の出会い
※ 本エピソードは「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件について」の第75-76話と同じ内容を含みます
「まじで原因わからんなー」
野田はアジフライにソースをかけながら言った。
「過去にもこんなことあった気がするなぁ」
翔太は筑前煮を食べながら記憶を探っている。
ここはアストラルテレコムの社員食堂だ。
翔太と野田は、人材派遣をメイン業務とした企業『アクシススタッフ』の社員だ。
2人はアストラルテレコムに出向し、この企業のオペレーション事業部で働いている。
翔太と野田が担当しているシステムのサーバーが、カーネルパニック(内部の致命的なエラーを検出してOSが再起動する現象)を起こすトラブルを抱えていた。
野田は皆目検討もつかない様子だったが、翔太は謎の既視感があった。
午後からは、アストラルテレコムの開発チームに加え、サーバーを提供しているベンダー『デルタファイブ』が参加するミーティングで、今後の対応などが話し合われる予定だ。
「まー、俺らじゃわからんし、デルタの報告を待つしかないな」
野田はあっけらかんと言った。
デルタはデルタファイブの略称である。
現状では、デルタファイブ側がコアダンプを解析しており、ミーティングではその報告がされる予定だ。
***
(あれ? 白鳥?)
会議室に着いた翔太は、見知った人物がいることに気づいた。
(あれ……ということは……もしかして……?)
翔太はこれまでの人生で全く経験がなく、言語化できないような不気味な感覚に襲われた。
「――えっ!!!!!!!!!!!!!!!」
その人物を見た翔太は人生最大の衝撃を受けると共に、強烈な吐き気が襲ってきた。
「おい、柊! 顔真っ青だぞ! 大丈夫か?」
デルタファイブの社員と名刺交換をしていた野田は、心配そうに翔太に声をかけた。
「ご、ごめん……トイレに行ってくる」
「あ、あぁ」
翔太は足元をふらつかせながら、トイレに駆け込んだ。
***
「ぐえーっ……おえぇーっ……」
翔太は今日一日で食べたものをすべて吐き出していた。
(今日の筑前煮はうまかったのに……)
「なんでアイツが……そりゃ、いてもおかしくはないな……」
半世紀近くの人生経験がある翔太は、大抵のことでは動じなかった。
しかし、今回ばかりは、どうしようもなかった。
***
会議室に戻ると、ミーティングは始まっていた。
咎められると覚悟していたが、野田がうまく言ってくれたようだ。
「――ということは、まだ原因がわかっていないということですか?」
デルタファイブからの報告を受けて、明石は詰め寄っていた。
明石はアストラルテレコムの課長で、翔太と野田の出向先の上司にあたる人物だ。
デルタファイブからの報告内容に納得がいかないようだ。
翔太は会議室にいる人物が気になり、報告の内容に集中できなかった。
***
「――デルタさん、もう次はありませんからね!」
結局、ミーティングでは問題の原因がわからないまま終了となり、明石の怒りは収まらなかった。
翔太はトイレにいたことで、挨拶をしそこなったデルタファイブの社員と名刺交換をした。
翔太と野田はアストラルテレコムの名刺も支給されている。
「
石動と名乗った男性の名刺には、『石動景隆』と記載されていた。
「野田、すまん。まだ体調悪いから、ちょっと休憩してくる」
「あ、あぁ、無理すんなよ」
翔太は胸の奥から湧き上がる衝動に突き動かされるように、石動を追いかけた。
理由はわからない。
ただ、運命が翔太を石動と巡り合わせようとしているかのように感じたのだ。
石動はゲスト用のIDカードを持っていたため、退館手続きが必要なはずだ。
「いた!」
翔太の予想通り、石動は白鳥とロビーにいた。
なんとか石動と2人で話せないか――そう考えていると、白鳥が離れていった。
おそらくトイレに行ったのだろう。
(チャンスだ!でも何を言うべきか……?)
初対面の人にいきなり声をかけられても不審に思うだろう。
ミーティング中に石動を不躾に見てしまったので、印象は悪くなっていると想定される。
白鳥が外している間に、自然でかつ、石動の注意を惹きつけるような話題を出す必要がある。
(考えろ……思い出せ……)
翔太は石動が今どんな状況にいるのかを必死に思い出した。
「――あの、石動さん」
「はい、なんでしょうか」
石動は翔太のことを警戒しながら応じた。
「今回の問題はCPUですよね?」
「――えっ! なんでわかったんですか?! ――あっ!」
石動は驚き、自分の失言に気づいたようだ。
(ビンゴ!これならいけそうだ)
社内でしか知り得ない情報を突きつければ、関心を惹くことができるはずだ。
「差し出がましいですが、私の言うことを聞いていただければ、今回の問題は解決すると思います」
「ええぇっ!」
「問題の切り分け方法や解析のポイントは……今は時間がないので、いただいた名刺のアドレスにメールします」
言いながら、翔太は辺りをきょろきょろと見回した。
ここからの話を白鳥に聞かれるのはまずい。
『私は石動さんのすべてを知っています。初恋は小学三年生の同じクラスで――』
翔太は石動自身にしか知らないはずの情報を耳打ちした。
石動は怯えているような表情になった。
(そりゃそうなるよな……)
当たり前だが、自分自身のことは自分が一番よく知っているため、石動の反応はすべて想定内だ。
「あの……石動さんのことを脅す意図はありません。
一度、2人きりでお話したいのですが、私のことを信じていただけるなら名刺の裏の連絡先にご連絡ください」
翔太はミーティング中に、石動に渡す名刺には連絡先を記載していた。
石動は呆然としている。
おそらく、受け取った情報量が多く、いっぱいいっぱいになっているのだろう。
「石動、どうした?――あ、どうも」
白鳥が戻ってきて、柊に気づいて会釈した。
(今はここまでだな、コイツなら間違いなく反応するはずだ)
「白鳥さん、石動さん、おつかれさまでした」
そう言って翔太はこの場を後にした。
***
「おい、柊、大丈夫か?」
「あぁ、すまん、もう大丈夫だ」
アストラルテレコムのオフィスに戻った翔太は、当時を思い出しながら石動にメールを書いていた。
あの時はCPUの解析に想定以上の時間がかかり、大問題になっていたので記憶に残っていた。
スレッドの競合でしか発生し得ない現象なので、再現のアプローチを簡潔に伝えることにした。
デルタファイブの解析チームなら、これだけで再現プログラムを作成できるだろう。
「野田、さっきの問題は多分解決できるぞ」
「え、マジか?」
***
翔太の携帯電話に石動から連絡があった。
「――もしもし、石動です。今から会えますか?」
***
翔太はカフェで石動と会った。
開口一番、翔太は結論から言った。
「俺、未来から来たんです」
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