第2話 その愛、重すぎます

 ブラッド様のお屋敷の夕食に家族で呼ばれた。

 婚約前に一度顔合わせをしようと言うことらしい。


 私達の乗った馬車がブラッド様の邸宅の門に着くと、門が開きブラッド様が出迎えてくれた。

「ローラ! ……いや、ローラ嬢。よく来てくださいました」

「ブラッド様?」

 ブラッド様は私の手を取って指先に口づけをした。そして、熱っぽい目で私を見つめたまま、私の手を握り「さあ、こちらへ」と言って食堂へと案内してくれた。つないだ手はずっと離さずに。……え? あいさつの後って、手を離さないものだったかしら? 私はなんだか恥ずかしくなって手を引っ込めると、ブラッド様はとても悲しそうな目で私を見つめた。


「ローラ嬢、ずいぶん美しくなられた。もちろん、あの頃も美しかったが」

「あの頃?」

「私が騎士見習だったころです」

「え? ああ! やっぱりあの時の!」

「そうです! ……これが運命と言わずにして、なにを運命と呼べばいいのでしょうね」

 ブラッド様の目に光るものが見えた気がした。


 やっぱり、あのときの若者が今は騎士団長になったのね。

「良かった」

 私はおもわず声に出してしまった。

「ローラ嬢も婚約相手が私で良かったと?」

 目を丸くするブラッド様を見て、私ははにかむように笑った。そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど、否定することでもないので私は小さく頷いた。


騎士団長なんていうから、もっと怖い人かと思っていたけれど、イメージとは違うみたい。


食堂に着くと、ブラッド様は自分の隣に私を連れていき、椅子を引いて座らせた。

 あれ? 会食の席順って家同士で固まって向かい合うんじゃなかったかしら?

 疑問に思いながらも座って周りを見てみる。あ、やっぱりお父様とお母様は向かい側に並んで座っている。不思議に思ってブラッド様を見つめると、甘い笑顔で私の目を見て頷いた。


え? 疑問に思う私が変なのかしら?


 ブラッド様の右隣には、ブラッド様のご両親が座っている。やっぱり三人同士で向かい合った方が自然な気がするんだけど……。

「ブラッド様、私も向こう側に座ったほうが良いのではないでしょうか?」

「私の隣は……嫌か?」

 そういう話ではないんだけど、世界が終わりそうな顔で見つめられると何も言えない。


「……いえ、そんなことはありません」

「そうか。良かった」

 緊張が解けたらしい。ブラッド様の笑顔が眩しかった。私が隣に座っているだけで、こんなにうれしそうな顔をするの? え? 私、挨拶以外に何かしたかしたかしら?


「ブラッド、ローラ様が困っていますよ」

 ブラッド様のお母様が見かねて注意してくださった。

「困っているのか?」


 再び悲しそうな切なそうな表情で、ブラッド様は私の両手を握りしめると、じっと私の目を見つめた。「だから、そのしぐさが私を困らせているの」と言うわけにもいかず、私はこう答えることしかできない。


「いいえ、ちっとも困っていません」

 パッとブラッド様の表情が明るくなる。大きな体に似合わない可愛らしさに私の顔が赤らんだ。


「良かった。君が困っているなら、私はなんでもする」

 本当に何でもしそうで怖い。

「……ブラッド様、大げさですよ」

 私は笑ってごまかした。

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