照ノ比良ヶ丘の上学園 A1組 2番 神薙桜。その女、独裁者につき。

葵日尾合

第1話

この世界は、いくつか秘匿されている事実がある。

 

 これはその秘匿されている事実が当たり前の、ある学校の話。


 ※ ※ ※


 晴れやかな4月の某日。ある少女が、小学校の入学式へと向かうために家を出た。


 最初は順調だった。

 しかし、いつもの長い赤信号に引っかかってしまい、苛立つ。

 そして待ちきれずに――飛び出した。左右は確認したが、それでも危険なのは変わりない。

 猛スピードで、トラックが突っ込んでくる。

 恐怖で立ちすくみ、よけることはできない。

 運転手は、なぜか半狂乱で運転している。


 絶体絶命のその時。


 そばを通りかかった制服姿の女性が、トラックを片手一つで止めてみせる。

 その目は冷たく、少女が、


「大丈夫か?」


「あ、あぁ」


「なんだその化け物を見るような目で」


「うわぁぁぁぁ!」


 泣いちゃった。

 周りの目つきが不審者を見る者に変わっていく。


「かいちょー、また顔怖くなってますよ」


「仕方がないだろう。生まれつきだ」


 少し後ろから白髪の美少女が現れ、少女にハンカチを手渡す。


「はい、お嬢ちゃん。このハンカチあげるから、顔を拭くといいよ」


「ありがとう、お姉さん」


 あまりの顔面偏差値の高さに、少女が泣き止む。


「ま、お兄さんなんだけど……いいか。かいちょー、行きますよ。このペースじゃ遅刻します」


「む、それはいかん。すぐさま行かなければ」


「あ、あの!お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 少女の母親だろうか。女性に名前を聞く。


「あぁ、彼の名前は 東雲 南北西。わが校――照ノ比良ヶ丘の上学園生徒会の副会長だ」 


「いえ、違くて、あなたのお名前を――」


「僕に名乗る名はない。しいて言うなら――しがない生徒会長独裁者だ」


 母親が目を見開く。

 そういうと二人は霧のように消え、瞬きをし終わるころにはすっかり消えていた。


 ※ ※ ※


「ふはは!締めてしまえ!あの不良生徒会の二人を締め出してしまえー!」


 がはは、と高笑いするのは照ノ比良ヶ丘の上学園校長。


「閉めるのは校門では?」


 そして冷静に突っ込みを入れる教頭。


「あいつらほとんど学校に住んでいるから……」


「いかれてやがる」


 そして、完全に鉄製の校門を絞め終わった直後。

 その正面からガンダッシュで近づく、生徒会の二人が。


「間抜けめ!校門はもうしまっているのだぞ!」


「関係ない」


 そういうと、少し離れたところから飛びあがり、ドロップキックで鉄製の校門を破壊する。

 ドロップキックで。

 鉄製の校門を。


「南北西。今何分だ」


「八時十分。登校完了時間ジャストです」


「わかった。教室に向かおう」


 こうして、あんぐりと口を開けた校長以外はいつもの風景と変わりなく、時間が過ぎていくのであった。


 ※ ※ ※


「不良生徒が迷惑をかけている?」


 ~生徒会室~


 山のような書類を片付けながら、生徒会長は問う。


「はい、ここ最近、照ノ比良学園の一部の不良生徒がコンビニの前でたむろしたり、『能力』を悪用して暴れまわっているとか」


「またか……能力のことは国家機密だというのに」


 能力。それは、この世界で秘匿されている事実の一つ。この学園は、その能力を持っている人々が集められた学園なのだ。


「それで?彼らの能力は?」


「それは――」


 能力を言いかけたところで、チャイムが鳴ってしまう。


「む。まぁいい。手段は問わないから、放課後に体育館裏に呼び出せ。私が行く」


「わかりました」


 ※ ※ ※


 ~照ノ比良ヶ丘の上学園 靴棚~


「うっひょぉぉぉぉ!」


 周りから汚物を見る目を向けられながらも、歓喜する男子生徒がいた。

 彼らが件の不良生徒である。


 内容はこうだ。


 好きです。体育館裏に、放課後の5時に来てね。


 という淡白なもの。

 しかし、そこは脳みそのいかれている不良。めっちゃ舞い上がっていた。

 そしてこれを書いたのは、男の東雲南北西であるのは――言うまでもない。

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