第45話 剥がれ落ちる仮面
私は渋谷から少し離れた仏果山の発射口――秘密の格納庫入口にラナを連れてきた。
この場所は私以外立ち入れないが、今日ばかりは特別にラナを招き入れることにする。
どうしてそこまで彼女に信を置こうと思ったのか、自分でもよく分からない。
ついちょっと前まで彼女のことを「うるさい子羊」くらいにしか思っていなかったのに……。
もちろんその実力は認めていたけれど。
「どこよ、ここ!? こんな山奥に連れてきて、私をどうしようってわけ!?」
「……黙って見てて。」
私が手をかざすと、すぐ足元の地面が2つに割れ、巨大な四角い穴が現れる。
小型とはいえ、ジェット機を射出するための施設。
地底深く続く穴の底は、肉眼では確認できないほど深い。
「な、なにこれ……嘘でしょ!? コケの継ぎ目がない……すごい仕掛けだわ。秘密基地……ちょ、ちょっと興奮しちゃうじゃない!!」
「……よく分かってるじゃん。とにかく着いてきて。早く閉めたいから。」
「飛び降りればいいのね?」
「話が早くて助かる。」
私たちは何の躊躇もなく飛び降りた――。
ラナは異能による龍の翼さえ広げずにそのまま落下していく。
どんな肝の座り方してんだ、この少女……。
「ちなみに、この穴、どこまで落ちるの?」
「あと15キロくらい。」
「はっ……!?」
「怖くなっちゃった?」
前言撤回、流石に火山活動が活発な日本の地下15kmにはビビるらしい。
いくら肝っ玉が据わってても、ドロドロの溶岩の恐怖には勝てないようです......
「えと……溶岩とかない場所に作ったのかしら? 日本なのに??」
「え? ある場所だけど?」
「さっきの私は、すまし顔で自殺用の穴に飛び込んだってわけ!?」
「そうなるね。てかパンツ見えてる。」
「ふぇぇ!?」
ラナは溶岩への恐怖と落下の浮遊感.......そして下着を指摘された恥ずかしさに情緒をぐちゃぐちゃにされながらも、ひたすら落下を続けた――。
―――――
「着いた……ここに自分の意思で人を連れてきたのは、初めて。」
「これ……全部怪異のデータと出現場所のファイルかしら?」
「それだけじゃない。怪異の言動や映像、私が倒した怪異の記録……その全てをここに保存してあるの。」
「こういうのは悔しいけど……あんた、本当に人類を守ってきたのね……。」
「……うん。最近はワガママしてるけど。」
「私が言えた口じゃないけど、少しくらい休みなさいよ。あんたが多少自分を優先して誰か死んでも……人類に文句言う権利なんてないんだから。」
――総出現回数人類最多の退怪術士......『千斬のラナ』。
ラナの言葉は、私にサクラとは異なる意味での救いを感じさせた。
同じトップ退怪術士の彼女だからこそ、その言葉には重みがある。
同時に、もし青春などに拘っていなければもっと多くを救えたのではないか
――そんな罪悪感も押し寄せてくる。
「……ありがとう。」
「きょ、今日は随分しおらしいじゃない……調子が狂うわね。」
「そうだよ。私なんて強がってるだけで、ホントはこんなもん。普通の女の子なの。」
「それを言うなら私もなんだけど? 私だって怪異が怖いと思うことあるし……朔月も?」
ラナが怪異を怖いと思うなんて……少し驚いた。
だが、私はラナを見て悟る。彼女が恐怖を抱くのは極々稀なことでしかないのだと。
「私?私は怪異を怖いと思ったことはない……ラナこそ、大切な人を失う恐怖に怯えたことはないの?」
「怯えはしないわね。そういうのは失った後に悲しめばいいし? 最初から怯えても無駄なんだから。」
「……あれ?」
「……とりあえず、お互いネジがぶっ飛んでるのは分かったわね。」
感動的な話になるはずが、微妙な空気に着地してしまった。
こうやって遠慮なく弄り合える友人は初めてかもしれない。サクラは恋人枠だし……。
「本題……入っていい?」
「いいわよ。こっちはそのために、ここまで来たんだから。」
「もう、私ひとりじゃ人類を守り切れない……前までは私さえいれば余裕だと思ってたけど……物理的に手が足りないし、動きにくくなってる。」
「あんたバカ? ずっと一人でやろうとしてたわけ?」
実際、私はずっと一人で戦ってきた。
誰も私の領域に届かず、誰も私と対等であろうとはしなかった。
それどころか、私自身が壁を作り、誰かと対等な関係を築こうとしなかったのだ。
いつしか周りに私を受け入れてくれる人が出てきても、私自身がもう壁を作ってしまっていたのだ。
でも、ここ数日の出来事で確信した――。
未知の敵、怪異の神......私から目を離さないサクラ、未だ目覚めないおじぃ……。
私の心はかつてないほど弱り、正常な判断すらできなくなり始めている。
――そして私は、これまでの人生で最も大きな秘密を明かす。
「私が誰か……知りたい?」
「それはどういうことよ……。」
「……退怪術士としてじゃなく、人としても協力してくれる相手が欲しいの。」
「いいわ。その代わり、私もあんたを人間として頼るけど、いいかしら?」
ラナはやっぱり根っからの真人間なのだろう......
私はどこか自分が助かるためにこの行動を起こしている節があったが......
ラナの言葉は、私の甘えや盲目さを一刀両断にした。
「うん、頼って。二人で……人類を守りたい。」
「お互い……バカよね。こんなバカ二人が退怪術士のトップ2なんて、ほんとに笑える世界だわ。」
「そうかもね……。」
私は仮面に手を伸ばした――。
指先が触れた瞬間、仮面に光の曲線が走り.......
――遂に仮面は顔から剥がれ落ちる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
ここまで読んでくださりありがとうございます!
ラナの強さとムーノの不安......
二人の絆の深まりは、人類に新たな希望をもたらせるのか?
そして次回......遂にその正体が明かされる。
面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をくれると超嬉しいです!!
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