第21話 『一之太刀』
――18分経過――
「沖田総司・三段突き......」
「……ちょっと範囲広すぎない?それ、幕末の技でしょ!?」
「是非に及ばず。」
18分が過ぎた.......私は、どうにかして優勢を保っている。
それもそのはず......怪異の繰り出した剣術を見た瞬間に凌駕し、叩き落としているだから。
だが、決定打を与えることができない。
『剣術』そのものの奥深さ、そこに秘められた真髄がまだ掴めない。
積み重ねられた技術と知恵が織りなす力に、ただ感服させられる。
「……まさか、人が積み上げし技を、人自らが否定するとは……愚か極まれり。」
「今さら? 人間は、この世で最も愚かで醜い生き物よ? だからこそ、ここまで勝ち残ってきた。」
「そのような考え、到底同意は致しかねる。」
「そりゃあ、怪異にはわからないでしょ。同族を殺すのに核兵器作った生物のことなんて。でも、その核兵器に一度あなたたちは負けたのよ。理解できる?」
かつて、ゴキブリが共食いをすることを恐れた人間がいた。
多くの人がそれに賛同していたが……
結局、人間は人を殺すために、兵器を作り出してきたではないか.......
人間は同族を殺すため、どれだけの労力を注いできたことか。
「人間の天敵は怪異じゃない。人間自身なのよ。」
「何を申したいのだ。」
「つまり……技術だけよこして、とっとと死ねってこと!」
「なんと……っ!?」
私は、朔月流の最速剣術『追光剣』を発動した。
圧縮された脚力を一気に爆発させるこの剣技は、超速で敵に迫る。
その剣の閃きで、私は怪異の小細工の正体を完全に見抜いた。
「あはは……なるほどね。あんたの剣術の底が見えた!」
「……」
「私に凌駕されぬように、わざと剣術を未完にして使ってたの? 武士の誇りが聞いて呆れる!勝つために歴史を否定するなんて!」
「それもまた、武士の積み重ねた研鑽の一つよ。」
タネが見えれば、あとは簡単だ。
未完の剣術では対応できない剣技を、新たに生み出せばいい。
完全な剣術を引き出し、敵が全力を出した瞬間.......それを私が凌駕すればいい。
「新・朔月流剣術! 乱月射光!!」
「超速の連撃……。侮るなかれ!その程度で我が底が見えるとでも思うたか?」
「うん、それ……あなたが思っているより、ずっとヤバい技だから。」
「……?」
その瞬間、怪異の無数の手腕が細切れにされていた。
風圧を把握し、空気の衝突を計算することで不可視の刃「かまいたち」を発生させた。
突然のダメージに皇帝級の大怪異は、全力の剣撃で防御してしまったのだ。
「ついに使ったわね。全力の剣術を!」
「人間如きが……」
「怪異如きで? 地球の最高傑作に勝てると思ってるの!」
「……貴様、この身が我らが神により滅ぼされることを知るや。」
次第に、ただの怪異としての姿が露わになってきた。
どれほど「士」を名乗ろうと、怪異は怪異。
かつての面影が剥がれ落ちれば、残る本質はただの獣。
それでも……楽しい。この高揚感を味わうのは久しぶりだ。
だが......それももう終わる。
あと一度、敵の全力を見れば勝てる。凌駕できてしまう。
あぁ……強いというのは悲しいものだ。
私は、一番になるべき器ではないのに……。
そう思ったその時、怪異の動きが止まった。
「……最後の全力で私を仕留めるつもり?」
「然り。」
「……いい度胸ね。叩き潰してあげる!」
何が来ても正面から打ち破る!!凌駕して見せる!!
そう思った私は自身の持ちうる最高の剣術で迎え撃つ......
「『怪能』極ノ纏 塚原卜伝。」
「……え?」
そこで私は生まれて初めて……鳥肌が立つという感覚を味わった。
それが相手への恐怖か、武威への称賛か……わからない。
とにかくその剣術は.......
剣だけで相対するという私の覚悟を、一瞬揺るがすほど武威だった。
「『終の心得・一之太刀』!」
「『奥義・新月』!」
漆黒の剣閃が空に円環を描き、新月が鮮やかに浮かび上がる。
その剣技は……圧倒的だった。
その完成度は、おそらくラナの『落月斬り』すら凌駕していた。
だが、その剣技の果てに見えたのは、私の剣術への認識の甘さだった。
「これが……先人たちの辿り着いた理想なのか?」
「……」
断言しよう。この剣の打ち合い、勝つのは私だ。
だが、そこに見たのは剣術の理想そのもの。
剣技の完成とは何か、その答えだった。
『一之太刀』……それは最終奥義ではない。
技そのものではなく、剣術の完成、理想の体現なのだ。
完璧な間合い、極限の技。完全な剣技は、二の太刀を必要としない。
どんな状況でも、必ず相手を一太刀で斬り伏せる究極の一撃。
その理想を体現した者こそが、『一之太刀』の達人となる。
「ありがとう……私が浅はかだった。あなたの剣、確かに受け取った……」
「無念……されど……」
皇帝級の怪異は、何かを言いかけたまま消えていった。
君主級以上の怪異になればなるほど、その本質が『人間』なのか『怪異』なのか、ますます見えなくなる。
「……君主級以上の怪異は、人間に関連する起源を持っているのか?なら、怪異の神とは……」
最悪の予感が過ぎるが、ひとまずそれは胸の中にしまっておく。
「みんなの所に帰らなきゃ……」
いくつかの不安を残しつつも、皇帝級の大怪異との戦いは終わった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★
どうもこんにちわ。G.なぎさです!
第21話をここまで読んでくださりありがとうございます!
ついに終わった『士の大怪異』との戦い。
勝負を制したのは人類最強......
しかし『一之太刀』にはこれまでの人類の研鑽が詰まっていた。
もし面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をしてくれると嬉しいです!
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