第6話 『千斬』






 ――――――地中海沿岸部――――――



 異形の形をした数十mの気色の悪い怪物と1人の少女が向かい合っていた。



「中々やるでは無いか……人間!!」


「あたしは……FCT序列3位!『千斬』ラナよ!!いつか1位を超える退怪術士なんだから!!」


「……まぁよい。ではこれを捌けるかな?怪装・黒点弾雨!!!」


「……やっぱり公爵級、怪装を使えるのね。でも!!甘いわ!!『千斬・空間断絶!!』」



 空を埋めつくし黒い死の雨を、全て切り払う。

 その攻撃はまさに、「千の斬撃」。


 これが彼女を退怪術士3位たらしめる理由。

 数ある斬撃系の異能の中でも、頂点に位置すると言われる『空間断絶』


 そしてその斬撃を……無尽蔵に連撃として放ち続ける……故に千斬。


 国際異能機関「ファクルタース」序列3位『千斬のラナ』



 しかし……今回の相手は公爵級の大怪異。

 その中でも彼女にとっては相性最悪の敵であった。



「勝った、と思ったな?残念だ。」


「これは……毒!?」


「相性が悪かっのぉ。我の怪装は触れた異能を介して、使用者の異能そのものを侵す。そしてこれを食らったが最後、異能という鎧を剥がされ最後には……ただの人間として死ぬ。」



 異能そのもので大量の手数を作り出す彼女にとって、異能を介しての毒は相性最悪である。

 敵に触れる異能の量が多くなるほど、比例して送れる毒の量も増加するからだ。



「くそっ!!ならその前に殺す!!『一刀断絶!!』」



 ラナの判断は適切だった。

 異能を少しずつ侵食するならば、その前に方をつけてしまえばいい。そう考えたのだ。


 ただ判断が適切なら勝てる……そんな都合のいい話は現実には無い。



「おーおぉ。目に見えて威力が落ちておるなぁ。」


「バカね?あんたとは、このくらいのハンデがあってトントンなのよ!!」


「1つ……勘違いしているな。誰が怪装が1つと言った?」


「……」



 膨大な力が集まる。遂には大きさ20mはあろう巨大な土槍がその姿を表す。


 しかしただの土槍ではない……その強度は。

 金剛石をも遥かに上回る。



「はっ!それな何よ!私だって1つじゃないわ!異能発現『戦装・炎龍』」



 彼女の周りは赤く燃え上がる炎に包まれる。

 そしてその炎を斬撃に付与し、打ち放った。



「なんと……それほど強力な異能を2つも?」



 遂には土槍を焼き付くし、炭にするまでに至るその高温は……

 周囲の海水さえも、凄まじい勢いで蒸発させている。



「じゃが?誰も槍が一つとは言っとらんぞ??」


「!?」



 埋め尽くすような量の土槍……それが極点に向かって集中するその様はまさに……


 ……人知を超えていた……



「……異能発現『心眼』」


「何!?まだあるというのか!?小賢しい小娘め!!」



 勝負が着いたように見えた……

 しかし彼女は新たに発動した異能『心眼』で土槍の起動を完全に見切り、回避している。



「伊達に3位と呼ばれてないんだから!!」


「当たらぬ……この!!人間ごときがぁぁ。」


「ほら!!正面取ったわよ!!これでさっさと消えなさい!!!!」


「バカな!?人間ごときが!!」



 しかし……



「ゴフッ。」



 あと一歩の所で、ラナの限界が来た。



「悲しきことだな?……あと2秒違えばやられていたのは我だったやもしれん。だがこれが現実!我の異装で貴様は異能の1割程度も使えない。」


「そんな……このあたしが……」


「後悔か?ならは悔いながら死ね。」


「こんなヤツにこれを使う事になるなんて……」


【報告。人類最強、朔月のムーノ様がもうじき到着します。】



「……その前に終わらせる!!異能共振!!魔能発現!!『炎龍心装』」


「1割程度でこの圧……つくづく人間の進化とは終わらぬものだな。」


【炎龍心装・千斬!!】



 空間を切断する斬撃を更に大きく、そして早くするだけではない。

 そこには追尾性能と、膨大な炎の熱が追加される。


 まさに生まれながらにして、天より怪異術士になる為に与えられた異能。



「まさか……こちらもこれを使う事になるとはな……」



 そう言って大怪異は体の中から、何やら小さな容器を取り出す。



「何が出てきても正面から叩き潰す!!」


「これはな……『超狂化ウイルス』と呼ばれるものだ。」


「は?」



 そう言って怪異王はその容器を体内で砕いた。



「ぅぉああああああああああ!!!これが!!狂化ウイルス!!かつて神の国で使われたというウイルス!!!」


「嘘……でしょ!?何よその力!!」


「ふははははははははは!!!これか?これが気になるよなぁ!!これはな!!遥かに高い次元に住む神々が使うとされる……『神力』と呼ばれる力だ!!!」


「くっ……恐らく万全な状態でも五分。今のあたしじゃ……」



『神力』

 神々の世界では魔力という名で親しまれるが……

 その力は他の文明の魔力とは一線を画す。


 エネルギー変換効率は実に99.993%。

 あらゆる物質、理論、事象に変換が可能な神々の万能エネルギー。


 それを擬似的にとはいえ、扱えてしまっているというのは……


 本来世界の摂理に反する事態なのだ。



「見よ!!これが神々の力!!力の深淵!!第10位階魔術!!超圧水刃!」


「あたしの断絶とやり合おうってわけ?いい度胸してるわね!!」



 恐らく万全の状態なら負けない……

 アイツは『神力』の使い方をほとんど理解していないからだ。


 しかし今のあたしが……勝てる保証はない。

 負ける?ここで死ぬ?このまま誰にも勝てないまま?



「激流の中に消えろ!!」


「うるさい!!」



 敗北を考えるなんて私じゃない!!

 勝つことだけ考えて!!突き進む!!!




 その後は時間にしてたった30秒ほどの短い撃ち合いだった。


 しかし重ねられた刃と刃は、千を超える削り合いとなり地中海上に輝いていた。


 そして遂に……

 その瞬間は訪れた。


 初めに致命傷を与えたのは……



「グバッ。バカな!!ありえぬ!!」


「な、めるな!さん……下!!」



 戦いを制したのは『人間』であった。



「あり、えぬ!異装で力の9割以上を削いだ……なぜ!」


「そのく、らいの……ハンデがあって、」



 浮かび上がる赫灼の巨刃。そして彼女は高らかに叫んだ。



「トントンなのよ!!食らいなさい!!!」


「バカな!!バカなバカなバカな!!ヌォォアアアアアア!!」



 赤き炎に埋め尽くされ、公爵級大怪異はその生涯を閉じた。



「ハァ…ハァ…。テンプレートは……破ってこそなんぼなのよ。」


「そのトーリ!さよーなら〜!」


「は?……」



 気づいた頃にはもう……

 彼女の土手っ腹に、真紫色の棘が貫通していた。







☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★☆☆☆☆☆☆☆☆☆★★★


どうもこんにちわ。G.なぎさです!

第6話をここまで読んでくださりありがとうございます!


君主級怪異と序列3位『千斬』

そして忍び寄る最悪の影?人類の運命はいかに!?


 もし面白い、続きが気になる!と思った方は【応援】や【レビュー】をしてくれると超嬉しいです!!


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