第3話 地獄の授業:思春期の少女にはキツイって!!






 あれから私たちはほどなくして学校に着いた。

 そして大講堂の席にサクラと並んで座っていると......



「皆さん!お座りを!授業を始めます。」



 先生が勢いよく突入してきた。

 彼女はエツコ。少し変わっているが私たちのクラス担任だ。



「……ステーキの焼き加減に、細かく文句を言うような異性は恋人にしないように……」


「……始まったね月乃ちゃん。またアプリで会った人ハズレだったのかな?……って月乃ちゃんまた!?」



 学生には朝しか出来ない「青春の醍醐味」がある。

 それは太古より脈々と受け継がれてきた、日本の伝統行事......


 そう……『『早弁』』である。



「何でそんなに早弁にこだわるの?いつもお腹空いたとか言って、お昼買い足すよね!?今我慢できないくらいお腹空いてるの?」


「……サクラ違う。必要だから早弁するんじゃない。早弁が必要だからお弁当を食べるの。」


「うーん......コンビニ弁当を?」


「にゅ……別にお弁当作れないわけじゃ……作れないわけ……つく……つ......」



 蘇る物理的に臭い青春の記憶!!!

 それは大怪異よりも遥かに手強い「ヤツ」との戦いの記憶。


 周りからの冷やかな目線......

 先生の呆れた顔......

 焼けただれて大惨事になって教室......

 目の前に燦然と立ちはだかるよく分からない黒い物体......


 あの時の絶望は、今でも私の脳裏にバチボコに刻み込まれている。



 その名は…….......『調理実習』である。



「そんなに早弁したいなら。作ってあげよっか?私料理得意だし……ていうかシェフの娘だったし……」


「是非!お願いする!サクラの手作り弁当!」


「じゃー明日からね〜?」


「んふふふふ。」



 もうサクラの彼女になろっかな私……

 これこそ私の求めていた青春!


 薔薇色……いや桜色の青春!!

 これで毎日頑張って、怪異と戦う甲斐があるってもんよ!



「さて。先生の話はここまでにしましょう!今日は異能の進化の可能性、についての授業をする予定だったんですが!とても素晴らしいものを手に入れたので、そちらの解説を踏まえた授業に変更いたしまーす!」


「えー。異能進化の可能性聞きたかったのにぃ。月乃ちゃんの異能も進化さえすれば、もっともっと強くなると思うのにな……」


「モグモグモグモグモグモグ。私は今のでも満足。平気平気。」


「ダメだよ!!いつも私が守ってあげられる訳じゃないんだよ!ちょっとは強くなって……じゃないと私また……」



 寝不足?なら今日の帰りに、安眠効果のある呪文でも作ってあげよう。

 ちなみに私が学校に届け出している異能は『切断と貫通強化』と『武器生成』だ。


 紋章等級は切断と貫通強化の方が『緑』、武器生成の方が『紫』だ。

 当然能力も等級も真っ赤な嘘なのだけれど……



「異能2つ持ちなんてこの世に5000人くらいしかいないんだよ!!凄いことなんだよ!!」


「……でも等級、緑と紫だし……作れる武器も1、2本が限界(´× ×`)」


「それでも!もしかしたら上の等級になるかもだし。」


「うーん。別に大丈夫かなぁ?」


「もぉ……」



 ちなみにサクラは青色だ。

 青色は極めて貴重で、既に色々な団体から卒業後のオファーが来ているらしい。

 まぁ余程の理由があるか、馬鹿でもない限り『FCT』に入るのがいいのだが......



 しかし次の瞬間……異変が起こった。

 私が思わず、冷静を欠くほどの超超大惨事だ。



「今日はですね!昨日ロンドンでお戦いなった我らが人類最強! ムーノ様の戦闘ムービーを手に入れましたの!!」


「ブフォッ!!!」


「つ、月乃ちゃん?大丈夫?」


「……私が死んだらお墓参りよろしく……ボソッ共感性羞恥。」


「な!何言ってるの月乃ちゃん!?」



 ヤバい……死にそう。いやもう死んだ。私のライフは既に0だ。

 撮られていた?確かに昨日は眠くて、ドローンカメラの存在を意識してなかった……


 これまでTV中継や、私の姿が映像で残ることを極力避けてきたのに……

 まさか学校の授業で公開されるとは。


 一秒が長い。まるで死の直前に訪れる時間の圧縮。   ※違います。

 私はかつてないほど追い詰められている。


 どうする?テレビを破壊する?


 それとも……先生を下痢状態にする?


 私が御手洗に行くというのも……



 しかし……



「月乃ちゃん!!ムーノ様だって!!ムーノ様!!!人類最強にして最高の退怪術士の!!その生映像が見られるんだって!!!」


「ぅ、うん。そ、そーだね?ヨカタネ?」


「うん!!!」



 そう……サクラはムーノの大ファンなのだ。

 部屋もムーノのフィギュアやグッズで埋め尽くされている。


 私が適当にあしらったせいで、グッズ化されてしまった数少ないグッズを大量に……。


 サクラの部屋に初めて行ったあの日……私は一度その生涯を終えた。

 あまりの羞恥心に気絶したのだ。


 結果的に看病され、よりサクラと仲良くなれたのだが……

 それから可能な限り、彼女の部屋には近づかないようにしている。



「も、もしムーノ様に会えたら……ど、どうする?」


「……抱きついてキスもしたいけど……」


「んん!?」



 え。これバレてもバレなくても……遠からず私……襲われるコースなのでは!?

 ていうかキュンってしちゃったじゃん……



「ありがとうって伝えたいかな?どうしても伝えたいこともあるし……」


「……案外……誰かに従っていたいだけかもよ?」


「え?月乃.....ちゃん?」


「冗談ね?」



 そんな青春を繰り広げていると……その時は来た。



「それではテレビ付けますねぇ!皆さんせーの!!3、2、1。」


「「ムーン!!」」



 いやぁぁぁ!やめてぇぇぇ!!私の黒歴史を合唱しないでぇぇぇぇぇ!?

 かつてまだ小さかった頃にやってしまった黒歴史……


 秒読みに合わせて、相手を引き裂く『不可視の攻撃』を起こしたのだが……

 相手の中にポッカリ現れた、球状の空洞が月のように見え……


 そしてその時の、ノリで言った掛け声と共に......

 世界中で爆発的にヒットしてしまい、この惨劇に至る。



「キッツゥゥゥ。」


「月乃ちゃん大丈夫?お腹痛いの?」


「痛いのは……頭?保健室行くほどではないけど……」


「じゃー私が撫でてあげる。イタいのイタいの飛んでけーって。」


「……???????」  ※数秒フリーズ



 親友に撫でられながら、地獄の時間はスタートしたのだった。

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