僕と先輩の(ピー)な関係

小糸 こはく

第1話 はだかんぼだったの!

「ちょっと後輩くん! 昨日きのうのはあんまりじゃない!? ハードすぎなんですけどっ」


 僕だけの静かだった朗読部ろうどくぶの部室が、先輩の甲高かんだくも美しい声で満たされる。

 部室内の人数が、ひとりからふたりに。だけどこれが、S大学付属高校朗読部員の全てだ。


 かつては全国大会にも出場したらしいけど、そんなのは過ぎ去った過去の栄光。今では新年度も1か月が経過したのに、新入部員がひとりもこない弱小部。

 というわけでこのままだと、先輩が引退する半年後には部自体がなくなってしまう。


「そうですか? でも先輩、ハードなの好きじゃないですか」


 そんなハードな『指令オーダー』は出してないはずだけど? むしろ先輩の自由にさせるとひどいことになるから、僕がブレーキをかけてるんだし。


「それはそうだけど……でもぉ~!」


 テーブルをはさんで対面に座った先輩が、唇をとがらせて不満そうな顔をみせる。この表情、めっちゃかわいいんだけど。


「いいから、出してください」


 腕を伸ばすと、先輩は素直にボイスレコーダーを手渡してくれた。

 回収したそれを再生すると、小さな機械から幼い声が流れ始める。


『しずはちゃんねー、ひとりでおふろはいれたよ? いい子でしょー♡』


 はい! かわいい。幼児のように舌足らずなしゃべりも完璧です。あんまりとかいった割に、先輩ノリノリじゃないですか。


『からだもー、かみもー、じぶんであらえたんだよ? おにいちゃん、ほめて~♡ でもね、しずははおにいちゃんとおふろがよかったな~、からだあらいっこしたかったー』


 レコーダーを一時停止させ、僕は顔を赤らめて無理に無表情を作ってる先輩を、


しずちゃんは、ひとりでお風呂に入れたんですね? とてもいい子です。えらいえらい」


 ほめてあげました。


「やっ、やめてよ! これはセリフだから、セリ……えへっ、ふへへっ」


 セリフって……僕の『指令』は、『子どもに戻った感じで話してください』だけでしたけど。お風呂上がりでどうこうは、先輩が考えた設定とセリフですよね?

 この音声は僕へと向けられた、『僕だけのもの』。ということは「お兄ちゃん」って僕のこと? 一緒にお風呂とか、セリフだけでドキドキなんだけど。


「ただのセリフなんですか? じゃあ先輩、実際はひとりでお風呂に入れないんですか? 体も髪もひとりで洗えないんですか」


「洗えるわよ! 昨日だってちゃんとお風呂に入ってから、この……」


 なんだ? 先輩のお顔が、「ぶふおー!」って火照ほてったぞ。


「どうしたんですか」


「な、なんでも……ない」


「恥かしいことですか?」


「なんでもないって!」


「先輩の恥ずかしいは、全部僕が貰う約束ですよね。話してください」


「そ、その言いかたは、じゅるい……よぉ~、うふぇへぇ~♡」


 すんごいニヤけたぞ。そしてキモイ笑い声。恥辱ちじょく快感かいかんとリンクしている先輩にとって、クリティカルなセリフだったらしい。

 彼女は深呼吸して、


「あ、あのね? その音声は、はだかで……とった、の。お風呂から出てすぐに、脱衣所で。だからその子どもなわたし、全裸ぜんら……だったの。ぬれぬれの、はだかんぼだったの!」


 ぬれぬれの、はだかんぼ……ですか。

 それは、えっと……


「ありがとうございます」


「なんでお礼言うの!?」


「本当に、ありがとうござました」


 深く頭を下げた僕に、


「お礼言うのやめて、やめないさい! 恥ずかしい……でしょ♡」


 甘えるような先輩の声が落ちてきた。


「それよりもまだ続きがあるから、ちゃんと最後まで聴いてよ。ここからがハードモード、わたし的には本番なんだからね。後輩くんの要求に応えたわたしのがんばりを、耳にきざみなさい!」


「はい」


 一時停止解除。


『それでね、いっしょにおふろに入ってね、おにいちゃんの(ピー)な(ピー)を、しずはがきれいきれいしてあげる♡ それからね、おにいちゃんと(ピー)で(ピー)なこと、したいな♡ しずはの(ピー)な(ピー)でね、おにいちゃんの(ピー)な(ピー)を(ピー)するの。でね、おにいちゃんの(ピー)でべっちょりなったしずはの』


 はい、停止!


 あぁ、もう。なんだこれ!? (ピー)とか(ピー)とか、こんなエロい言葉カクヨムじゃ文字にできないじゃないか。(ピー)って伏字ふせじにするしかないんですよ!

 かわいい声で、なんてセリフしゃべってるんですか!


 それから(ピー)で(ピー)なことってなんだよ、童貞どうていの僕には理解できないよ。

 あまりにひどいな。ハードがどうこうって、先輩めっちゃノリノリだし。


「だ、だからハードすぎだっていったじゃない! 後輩くん、エッチすぎだよ~。先輩になに言わせてるの? こんなはずかしめ、はぁはぁ、こーふんして(ピー)が(ピー)になっちゃうでしょ!?」


 興奮してという言葉通り、頬を上気させて息を激しくする先輩。


「誰がこんなセリフを言えと? 僕じゃないですよね」


「そ、それは……だって後輩くん、わざわざ子どもっぽい演技を求めてきたから、あぁ、こいつロリ野郎なんだなって、じゃあサービスしてやるか先輩としてって思うでしょ!? これを望んでたんでしょ? わたしできる女だからさっしたよ!」


 できる女とはいったい……。

 僕は子どもな感じの先輩の、かわいい声が聞きたかった。それだけだったんですけど?

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