第38話

 さて、なんか状況が分からない。

 朋絵ちゃんと桜子ちゃんは当たり前だが分かるし、そしてそこに愛奈さんがいるのもまあ分かる。

 そして、うん、夜月ちゃんが遊びに来ているのも分かるという事にしよう。

 だけど、「私はこの家に住むようにしました」とはどういう事だろうか?

 意味がさっぱり分からない。


「夜月ちゃん、君は」

「私はこの家の子になります」

「いや、この家の子になりますって」


 隣にいた翔君を見ると呆れているというより驚いているようだった。

 まあ、いきなり知り合いがこんな子供のような駄々をこね始めたら驚くしかないのだろう。

 俺も同じ立場だったらそうなっていると思う。


「うーん……」


 と、愛奈さんが困ったように笑いながらこちらに語り掛けてくる。


「えっと。どうやら夜月ちゃん、お姉さんと喧嘩したらしいのよ」

「け、喧嘩?」


 原作では自分の身を犠牲にしてでもお互いを助け合おうとしていた双子の彼女達が?

 え、そんな事起こり得るの?

 い、いやまあ双子姉妹の仲良しだとしても別にずっと仲良ししていなければならないというルールはない、か。

 そしてそのたまたま喧嘩して険悪だった時が今だったという……いや、でもそれで喧嘩して「家に住むようにする」っていう家出発言をするまでいくか?

 一体どのレベルの失言をしたっていうんだ、まだ見ぬ朝日ちゃん。


「とはいえ、ご両親もいるだろうにいきなり家出なんて出来ないだろう……?」

「お父さんとお母さんは忙しくて家になかなか帰ってこないから大丈夫です」


 大丈夫じゃねえ。


「い、一応お姉さんに『ここにいる』って伝えた方が良いんじゃ……」


 そのように控えめに進言してくれる愛奈さんだったが、しかし夜月ちゃんは強情にも「やです」と頭を振った。

 

「お姉さんなんて知りません」

「いや、でも流石に心配しているだろうに」

「自業自得です」

「えー……」


 俺は閉口するしかなかった。

 ていうかみんな閉口していたし、夜月ちゃんは何故か自信ありげに胸を張っていた。

 多分興奮状態で何を考えているのか自分でも分かっていないんだと思う。


 みーんみーんとどこか遠くで蝉の鳴く音が聞こえる。

 ……もうすぐ夏休み、暑い時期。

 もう結構な時間帯とはいえこのまま外で突っ立っていても汗だくになって熱中症になってしまうかもしれない。

 

「……とりあえず、家の中に入るか」

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