あの女子中学生は私をどう思っているのだろうか
ちま乃ちま
あの女子中学生は私をどう思っているのだろうか
ある日の深夜11時頃。私が塾から家に帰ろうと自転車に乗っていたときの出来事だ。
その日は空が晴れており、自転車を漕ぐには良い日であった。普段は塾まで親に送ってもらっていたのだが、その日は時間に余裕があったので自転車で塾まで漕いでいった。真っ直ぐ行ったり、曲がったり。
10分ほど走ると塾に到着した。
駐輪場に停めるのに少し手こずったが、なんとか授業の始まる5分前には停めて、教室へと入ることができた。
その日は英語の授業だった。私の通う塾にはワークなどがなくプリントであったので、ついた頃にはもう用意されていた。問題はいつもどおり難しかったが、何故か普段よりもよく解けていたのでその時はとても気分が良かった。
そして授業が終わった。
教室を出てすぐに自転車を取りに行き、サドルに跨って漕ぎ始めた。
家と塾の間にはラーメン屋や居酒屋がいくつも並んでいる。どのお店も深夜までやっているためか、どれだけ走ってもずっと明るかった。
そんな事を考えていると、目の前に同じく塾帰りのように思われる中学生のような女の子が現れた。
こんな時間まで勉強をやっていて偉いな、などと感心しながら彼女の後ろで漕いでいた。もちろん声を出したりはしていない。決してしていない。
問題はここからだ。
私の前を歩いている女子中学生がちらっとこちらを向いたあと急に走り出したのだ。急に走り出したので私は驚いてしまったが、やましいことも何もないのでスピードも変えずにそのまま女子中学生の後ろを走っていた。
まあ走り出したくなる日もあるよなと考えたが、しかし、女子中学生の走るスピードは明らかに早くなる一方であった。
流石に私も高校生なので、腹が立ったり、気分が悪くなったり、文句を言ったりすることはない。しかし走るスピードがどんどん早くなるというのはどこか心に引っかかるものがあった。
私から逃げるように走る女子中学生とそれを追いかける私。もし周りに人がいたとして、この光景を見られていたとすれば私はその人に呼び止められ、警察へと連絡が入っていただろう。だって周りから見れば私が女子中学生をストーカーしているようにしか見えないのだから。
しばらく行くと、街灯で白く照らされた脇道が見えてきた。女子中学生はその白の脇道へと曲がり、2メートルくらいのところで止まった。私は脇道には曲がらずそのまま真っすぐ進むため、その脇道を通り過ぎた。
私の前から女子中学生がいなくなった。目の前には光と闇が入り混じっていた。
そこから先、私は人には会わなかった。唯一出会ったとすれば、鋭い目つきの動物だけだ。
短くも長い道のり。徐々にお店や街灯が少なくなり真っ黒へと近づいてゆく。私はさっきの女子中学生のことばかりをずっと考えながら走った。
自宅に到着し、自転車をいつも停めてある場所に止めた。
「ただいまー」
家に入るとまず真っ先に玄関の横にある前身鏡が目に入った。そこに写っていたのはポニーテールに黒いパーカー、デニムのパンツ、そして黒いリュックを背負った自分の姿だった。
そして極めつけに、思い返すと私が乗っていた自転車は黒色だった。
「あ……」
光と闇が入り交じる中で後ろから闇にまみれた人間が迫ってくる。光へと進むのか、闇へと進むのか。そんな選択の中で、彼女は光の方へと進む道を見つけた。どれほど黒い何かに追われても光を見失わなかった彼女は尊敬すべきだ。
そして、こんな格好だったら彼女――あの女子中学生にこう思われていても仕方がないかもしれない。
「後ろに真っ黒の怪しい人がいる」
あの女子中学生は私をどう思っているのだろうか ちま乃ちま @chima_ma_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
呟き記録最新/葉月林檎
★123 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1,299話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます