俺たち別れよう→彼女が可愛すぎて辛い(短編)

桜井正宗

第1話 俺たち別れよう

「俺たち別れよう」


 はじめて出来た彼女であり、三年の付き合いがあるだいもん 信乃しのを俺は、たった今振った。


 信乃は千年に一度のスーパーアイドル級の美少女でスタイル抜群。性格も優しくて、笑顔が可愛くてまぶしい。料理だって美味い。成績優秀で欠点などない。

 今までの俺は幸せすぎるほどに幸せだった。


 だが…………!


 元クソ陰キャぼっちの俺。その性格がこの数年で改善されてはいた。しかし、将来を見据えたとき……俺は悲観した。絶望してしまったのである。


 信乃を幸せにしてやれない――と!


 この俺と一緒にいるだなんて、絶対に不幸になる。

 もし結婚したら生まれてくる子供が可哀想だ!

 そうネガティブに考えてしまった。


 だから、俺は信乃を振った。


 しかし……!


「……え。やしろくん。それ、嘘だよね…………?」


 目尻に涙を溜め、今にも泣きだしそうな信乃。信じられないと、何度も何度も確認してきた。だが、俺は本当だと言った。


「すまん、信乃。高校三年の今のうちに別れるべきだと判断した」


 少し沈黙。

 非常に気まずい。

 信乃はきっと俺に失望している。

 ヒドイ奴だと感じていることだろう。

 これで俺の青春は終わり。バットエンドだ。


 そう思われたが、それは俺の思い過ごしだった。

 信乃は突然、俺に飛びついてきて泣き出した。


「やだやだやだ! 社くんと別れるとか絶対にイヤ! わたし、社くんなしじゃ生きていけないよ……」


 まるで子供の用に駄々をこねてきた。

 そうだった。

 信乃はこういう子供っぽいところがあるんだった。でも、そこが可愛いというか。……いや、いかんいかん。

 今、可愛いと思ってしまった。

 心が少し揺れ動いていたぞ、俺。

 だめだめ。

 俺は信乃を幸せに出来ないんだ! 無理! 不可能!


「……だめだ。今の俺は昔のゴミ陰キャに戻ってしまった。もう無理だ」

「それでも社くんが好きなの! どんな社くんも好き。大好きっ!」


 ぐ……ぉ。

 正直、ここまで抵抗されるとは思いもしなかった。てっきり信乃は俺に失望して去って行くと思ったんだがな。それは違ったらしい。



「だけど……」

「大丈夫だよ。どんなことが起きても、わたしが支える。ずっと社くんを好きでいる。愛してる。いつか結婚しよう」


 ぎゅっと抱きしめられ、心が激しく揺れ動いた。

 動かないはずの心の歯車が回っていく。


 あぁ、俺はやっぱり信乃が――。



 だめだ……。

 だめだ……。

 だめだ……。



 信乃が可愛すぎるうううううううううううううううううう…………!!



 ここまで思ってくれるなんて……俺はなんて幸せ者なんだ。信乃を捨てるなんて出来るはずがない。

 そうだな、もう少しだけ考えてみるか。

 高校生活はあと一年ある。

 本当に信乃と別れるかどうか、もうしばらく考えてみよう。

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