稽古中、後輩と秘密のサボリ

松岡清志郎

第1話 センパイ、ふたりで抜け出しましょうよ

SE:ドタドタと複数人が動いている音


「……ハッ、たぁっ! フッ! ……はぁ、はぁ……やぁっ! ふっ、ふっ……ふぅーっ。……次っ、組み技お願いしますっ」


「はぁー、ふぅー……押忍っ。組み技稽古、失礼しますっ!」


SE:衣擦れの音

(以下、しばらく近い距離で声をひそめて。時折荒い息づかいがまざる)

「はぁっ、はぁっ。……センパイセンパイ。ちょっといいスか。そのまま聞いてください。……んっ、やっ……。ちょ……け、稽古はちょっと中断っ! フリだけでいいんでっ……!」


「ふー……。そうそう、それでいいっす。はぁっ、はぁっ……それで、センパイ……今日、マジでヤバくないすか?」


「この暑さで道場にエアコンないとか……いくら室内だからって、流石におかしいっすよ。暑すぎ。どうかしてませんか?」


「……そ、そっすよねっ! そっすよね! 絶対おかしいですって。他の人たちも顔死んでますし。……ちなみに私の顔大丈夫っすか? 死んでる? うっそマジですか!? うぅ……い、いや楽しいんすよ? センパイとの稽古ですし。ていうか、先輩となら基本どこで何してても楽しいんすけど。……でもこれは流石に暑すぎて、顔も終わるっていうか」



(何かたくらむような声で。距離は相変わらず近く)

「……なんで、相談なんすけどぉ~。……ねねねっ、センパイ。ちょっとふたりで抜け出しません?」


「え? だ~いじょうぶですって。先生、さっき出てったばっかじゃないっすか。うちの顧問とバスケ部兼任してるから、あっち見に行ったんっすよ。しばらく帰ってこないですって」


「皆もちょっとくらいのサボリは見逃してくれますから。私も他の人がサボってるの、何回か見逃してあげた事ありますし。ね~? いいじゃないっすかぁ。サボりましょうよぉ~。ねぇ~」


「……あ、そうだ、アイスっ。一緒に自販機でアイス買いましょ! うっわ、最高じゃないっすか!? アイスアイスアイスぅ~」


(以下、より密着して耳元に囁くように)

「……ほらぁ、食べたくなってきませんか? 下のロビー、涼しいですよ? 自販機でアイス買って休みましょう? あそこ、休憩用のベンチありますから、ふたりで並んで食べましょうよぉ」 


「それに私、こんなこしょこしょ話じゃなくて、先輩とはいつもみたいにゆっくりちゃんと話したいですし。……いや、このこしょこしょ話も、なんか秘密共有してる感じがしてすっごくいいっすけど。ねねっ? どうっすか?」


「……んっ。んふふっ……せ、先輩。耳くすぐったいですって。……いや、だめじゃないっすけど。先輩の声、好きですし。ただ、ちょっと恥ずかしいっす……。も、もうちょっと優しく……」


「んぁっ。ふっ、ふぁっ。……へ、へんな声出たじゃないっすか。先輩のせいで。……も、もう囁くのはいいっすから、一緒にサボってくれるなら、ちっちゃく頷いてもらって……」


「……やたっ! えへへ、センパイ最高っすっ! ……それじゃ、こっそり行きましょ~」

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