カツレツ！ 鷲宮殺人事件

第1話

　9人死亡

　葛城　探偵

　藤堂　刑事

　加藤明日香　医師

　宮下　鷲宮スワローズ

　宮下明美

　その後、葛城は高根沢の「おだきさん」での事件をきっかけに、地元の人々との絆を深めていった。ある日、葛城は埼玉の野球チーム「鷲宮スワローズ」の試合を観戦することにした。そこで彼は、一人の野球選手、宮下と出会うことになる。

　宮下は地元で知られる実力派の投手であり、彼の剛速球はチームを幾度も勝利に導いてきた。しかし、試合の後、葛城は宮下の妻、明美が彼のもとに駆け寄り、何やら心配そうに話しかけるのを見かけた。葛城は少し離れたところでその様子を見守っていたが、明美が涙を浮かべながら宮下に話しかけているのを見て、何か問題があることに気づいた。

　翌日、葛城は偶然、スーパーで買い物をしている明美と再会した。彼は思い切って声をかけ、彼女の悩みを聞き出そうとした。明美は最初は躊躇していたが、次第に心を開き、宮下が最近、無理をして体調を崩していることを打ち明けた。

「旦那さん、野球に命をかけてるんだね。でも、無理しすぎると体が持たないよ」葛城はタメ語で明美に話しかけた。

「そうなんです。でも、彼はどうしてもチームのために頑張りたいって…」明美は涙を拭いながら答えた。

　その時、葛城は「業腹」という言葉を思い出した。業腹とは、ある種の運命や宿命に囚われてしまうことを意味するが、宮下もまたその運命に捕らわれているのではないかと思った。

　数日後、宮下の状態はさらに悪化し、試合に出ることすら危ぶまれるようになった。葛城は宮下を訪ね、彼に無理をしないよう説得を試みた。しかし、宮下は自分の体が不死身であるかのように感じ、プレーを続けようとした。

「俺はまだやれる。チームのためにも、家族のためにも、俺は戦い続ける」宮下は決意を固めていた。

　しかし、ある試合の日、宮下はついに倒れてしまった。葛城はすぐに駆け寄り、彼を支えながら病院に運んだ。医師は彼に、無理を続ければ命に関わることを警告した。

「宮下、これ以上無理をするな。お前の命は一つしかないんだ」葛城は真剣な表情で宮下に訴えた。

「わかったよ、葛城。俺、もう無理しない。家族と一緒に、普通の生活を送るよ」宮下はついに決意を改めた。

　その後、宮下は野球を引退し、家族との時間を大切にすることを選んだ。彼の決意に感謝する明美と共に、彼らは新たな生活を始めた。葛城は、彼らの幸せを見守りながら、自分もまた新たな冒険に向かって歩み出すのであった。

　鷲宮は関東平野のほぼ中央部に位置し、低地が中心の地形である。東武伊勢崎線が南東部から北西部へと縦断し、JR東北本線（宇都宮線）が南北を縦断する。また、東北新幹線が東部を通過する（停車駅は存在しない）。町の面積は埼玉県内で3番目に狭かった。近年開設された東鷲宮駅周辺で「東鷲宮ニュータウン」の開発が進められており、人口は現在も増加傾向にある。東京都区部への通勤率は20.4 %（平成17年国勢調査）。旧・南埼玉郡（武蔵国埼玉郡）、のち北葛飾郡旧桜田村と合併後は北葛飾郡に属した。宮下は「東鷲宮ニュータウン」に住んでいた。

　葛城は東鷲宮ニュータウンの静かな住宅街に足を踏み入れた。青空が広がる午後、彼は友人の宮下の家を訪れるために歩いていた。宮下とは大学時代からの親友で、彼の家には何度も遊びに来ているが、東鷲宮ニュータウンに引っ越してからは初めてだった。

宮下の家に到着すると、葛城は玄関先で彼を迎える宮下の姿を見つけた。

「やあ、宮下。久しぶりだな」と葛城は手を挙げて挨拶した。

「久しぶり、葛城。元気そうで何よりだよ」と宮下も笑顔で応じた。

二人は玄関を通り抜け、広々としたリビングへと向かった。窓からは東鷲宮ニュータウンの美しい景色が広がり、遠くには異人館ホテルのシルエットが見えた。そのホテルは、このニュータウンのシンボル的存在であり、かつては外国人の宿泊客を迎えていたという。

「見てみろよ、あの異人館ホテル。歴史があるだけあって、まだ風格があるよな」と宮下は窓の外を指さしながら言った。

「本当に。昔は豪華なパーティーとかが開かれてたんだろうな」と葛城もその景色に見入った。

　二人はリビングに腰を下ろし、昔話や最近の出来事について語り合った。宮下は最近の仕事の話や、東鷲宮ニュータウンでの生活について話し、葛城は彼の話に耳を傾けながら、久しぶりに友人と過ごす時間を楽しんでいた。

「ところで、異人館ホテルって今はどうなってるんだ？まだ営業してるのか？」と葛城はふと思い出したように尋ねた。

「いや、今はもう営業してないんだ。観光客も減って、ホテル自体も老朽化してるからね。でも、地元の人たちにとっては大事な場所だから、保存活動とかも行われてるらしいよ」と宮下は答えた。

「なるほどな。いつか中を見てみたいものだ」と葛城は微笑んだ。