第16話 披露宴後②


 行為を終え、俺とリスティは並んで横たわり、布団を被った。ベッドの上、すぐ近くにリスティの顔がある。


「リスティ、大丈夫?」


 思えば、結構激しくしてしまった。終わって冷静になると、少し心配になる。


「はい。もちろんです」


 そう言ってリスティは微笑む。そして、自身の鎖骨の上に指をあてた。そこは赤く痕になっている。いわゆるキスマークだ。


「はしたないお願いしちゃったから、マリエルにはお説教されちゃいそうですけど」


「よし、一緒に怒られよう」


 キスマークはリスティの希望で付けた。だが、俺も大喜びで吸い付いたので同罪だ。


「でも、そんなの知っているんだね」


 リスティはキスマークなんて知らなそうなイメージだった。というか、全般的に前回より性的知識がアップしているような印象がある。


「えへへ。実は、王家の禁書庫に通いまして」


「禁書庫??」


 王城にロフリク家の秘密文書を収納した王家の人間しか入れない書庫があるのは知っているが……


「はい。その、コーム王の手記を」


「4代目の手記! そんなものあるの!?」


 ロフリク王国第4代国王、コーム。国内においては善政を敷き、外交も巧みで国を発展させた実績ある王なのだが、世間ではこう呼ばれる、『変態色欲王』と。


 無類の女好きで、庶子は多すぎて人数さえ不明。ただ女性を抱くだけでなく、特殊なプレイを好んだらしい。正妻はドン引きし、王子を二人生んだ後は遠方の直轄領に移住。まさかの王妃別居となった。もちろん詳細は伝わっていないが、相当なものだったとは言われている。


「はい。夜の営みについて……朝も昼も営んでたみたいだけど、凄く詳細に手記を残してます。その、私には物理的に不可能なことも沢山でしたが」


 リスティ、ヤバいものを参考にするのは良くないと思う……でも、他に参考書もないか。それにキスマーク一つぐらいなら、まぁ普通だろう。案外コーム王も誇張されただけで、普通のプレイが記載された手記かもしれない。


「ちなみに、コーム王は布団を裂いて中の羽毛を掴み、寝かせた女性の上に投げて、羽毛の乗った場所全てに吸跡を付けたりしたそうです」


 評判通りヤベー王だった。そりゃ王妃も逃げるわ。


「リスティ、過激なのはあんまり参考にしちゃ駄目だよ」


「えっと、はい」


「でも、ありがとう」


 俺の為に勉強してくれたと思うと、かなり嬉しい。


「あ、そうだフォルカ、結婚にあたっての条件のことだけど」


 なんのことだろう? 条件なんてあったっけ? 『確認』は無事に済んだから挙式したんだし。


 少し考えるが出てこない。


「えと、側室や妾は何人でもご自由にって」


 ああ、そう言えば一番最初に父さんが何か言ってたな。完全に忘れてた。

 リスティは少し真面目な顔になって言葉を続ける。


「私のような女にとって、フォルカはとても貴重な存在です」


 どう返して良いか分からず、俺は「うん」ととりあえず頷く。確かに貧乳好きはこの世界では希少な人間だ。


「もとよりロフリク側からの条件だけど、私も独り占めはよくないと思ってます。そもそもフォルカの立場なら側室一人は当然として、もっと増えても私は受け入れるから」


 なんか、決意を表明された。そして、言外に『胸の小さな人で良い人がいたら選んであげて』という気持ちも込められているのだろう。


 まぁ確かに高位貴族なら側室はいるのが普通だ。理由は単純、高位貴族は高位の魔法使いであることが多く、戦争になれば主力として戦う。平和なら良いが、戦争が起きると兄弟纏めて死んだりする。

 実際、現マンジュラ公爵の正妻との子供はグリフィス王国侵攻のときに全滅した。


 血統のスペアは大切なのだ。うちの父は母一筋だが、そのことに祖父は度々苦言を呈していたらしい。


 加えて、大魔法使い級の男性には「魔法戦力増強のために沢山子供を作れ」という圧力も来る。


 側室、妾……脳裡にリタの顔が浮かんだりもするが……何にせよ今考えなくてもいい。


「とりあえず、今日はもう寝ようか」


「うん」


 俺は水魔法で糸状にした水を操り、寝室のランプを消す。おやすみのキスをして、目を閉じた。


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