第27話
「真里子さんが嫁いでから宮野法律事務所は落ち目になっていった。しかしそれと反比例するように実家である高木家は裕福になっていった。
……それを真里子さんは妬んでいた、という事でしょうか?」
清本はその勝手な理屈に内心憤りながら彼女らの叔父に問いかけた。
「……そういう事に、なるんでしょうなぁ……。実を言いますとね、沙良が事故に遭って婚約者と居るようになってから、姉妹の母親……私の姉の13回忌法要がありましてね。その時廊下で2人で話しているのを聞いちまったんですよ、私。真里子が奈美子を酷く責めているのを」
「真里子さんが奈美子さんを責める? それはいったいどういったことでしょうか?」
「それがまた、とんでもない理屈で。『昔沙良と自分の息子との婚約を断って自分の家を『出入り禁止』なんて非常識な事をするからこんな事になったんだ』って。……いや、私も数年前から2人の家が何やら揉めている事には気付いていましたが、それが子供達を結婚させようと真里子が言い出したからだとは思ってもいなかった」
叔父はそう言って大きく息を吐く。
「……しかも、真里子の話を断ったから沙良が変な男に引っかかったんだって……。そんな風に奈美子を責めるなんてとんでもなくお門違いな話だ。……私はその時さも今来たかのように2人の所に割って入ったので、その時の話はそれで終わりましたが。
……あんな所でそんな話をするくらいだ。おそらく普段から奈美子は真里子に酷く言われてたんでしょうな」
「沙良さんがあの婚約者の所にいったのは昔真里子さんが持ち込んだ婚約話を断ったせい……。本当に真里子さんはそんなめちゃくちゃな理論で当時一人娘が居なくなり落ち込む妹奈美子さんを責めていたんですか」
鈴木と清本は余りの非常識さに呆れ果てた。
……そして、清本は激しい怒りも覚えていた。
「そんな勝手をされ続けたのに、どうして奈美子さんは真里子さんとの付き合いを続けていたのでしょうか」
清本は湧き上がる怒りをなんとか抑えつつ叔父に問いかける。
「……それが、幼い頃からの摺り込み、とでもいうんでしょうかねぇ。真里子が激しい言葉を投げ付けると奈美子は反射的にはいと答えてしまう。……そんな人間関係が出来上がってしまっていたんですよ。
姉さん夫婦も、本当に罪作りな事をしたものです」
叔父は俯き、苦しげにそう答えた。
◇
鈴木刑事と清本刑事は沙良の母親の叔父に話を聞いた後、少し離れた駐車場に向かって歩いていた。
「おい、キヨ! そんなドシドシ歩くな。足痛めるぞ」
「そんな事言われても! ……許せないじゃないですか、こんな歪で勝手な姉妹関係……!」
若い清本は、理不尽な姉妹の関係に怒りを抑え切れずにいた。
「まあ、そうなんだがな。大人になっても真里子はずっと奈美子を従わせてたんだな。……おい、早いって!」
「……真里子は言葉の暴力で妹奈美子を支配していた。自分で実家を捨てておきながら裕福になった実家と妹を羨みそれを自分の息子と結婚させる事で奪おうとしていた! 妹を恫喝してなんでも言うことを聞かせて……、……え?」
清本はそこまで言って、急に立ち止まる。
後ろから追いかけて来ていた鈴木は体格の良い清本の背中にぶつかり尻餅をついた。
「……ぶッ! ……おいキヨ、急に止まんな!」
それでも清本は立ち止まったまま動かない。
「……? なんだ、どうしたキヨ」
「スーさん……。高木家の財産。もし沙良さんが居なくなったら誰が受け継ぎますか」
「……あ? なんだよ急に。俺の尻餅の心配は無しかよ。……んー、なんだって? お嬢さんが居なくなったら当然遺産は松浦拓人だろ。一応『夫』だからな」
「……でも、もしも拓人氏の高木家に対する犯罪が立証されるかそもそも結婚自体が偽証だと証明出来れば……」
「まあそんな証明はなかなか出来ることではないだろうがな。
……キヨ。お前の考えてる事は分かるぞ。真里子が高木一家を消して、その次に権利がある自分が高木家の財産を、ってんだろ? でもそれはお嬢さんが拓人と結婚している以上は難しい。お嬢さんの後に拓人が死んでも遺産は拓人の実家側にいっちまう。流石に弁護士の妻をやってんだからそれくらいは分かってるだろ」
「それは、そうなんですが……。やっぱり俺は伯母真里子が怪しいと思います。
……けど確かに沙良さんが先に死んだのでは遺産は拓人に行くだけ。という事は、2人を一度に消す必要がある……」
「そうなりゃ、特に先日の階段の事故は説明がつかない。真里子はなんらかの形で今回の事件に関わってはいるんだろうが、遺産目的と考えると犯人とは考えにくい」
そんな鈴木の話を苦々しい表情で聞きながらも、清本は先程思い付いた考えを話してみることにした。
「スーさん……。俺、沙良さんの両親の事故は、どうして起こさせたのか方法だけなら分かった気がします」
「……なんだと? キヨ、話してみろ」
その方法を清本が話すと、鈴木は一考した後頷いた。
「成る程……。あり得ない話じゃないが、それを証明するとなると難しいぞ」
「……そうなんですが……。とりあえず、松浦氏の書いた手帳の細々した案件から立証していきますか。沙良さんの父親が気付いたという事は、なんらかの手掛かりはあると思うんです」
「……そうだな。それにそこから何か確かな証拠が出てくるかもしれない」
ピリリリリリ……
「お、誰だ……、っと、はい鈴木です」
鈴木が不意にかかって来た電話を取ると、同僚からだった。
「……ああ、そうその件で今調べて……は? お嬢さんが?」
『お嬢さん』と聞き、清本は顔を上げ鈴木に近寄り耳を澄ませる。
「宮野真里子に、連れ去られた!? いや、狙われているから気を付けるようにと話はしてあったんだが……、ついさっき百貨店から!? えらい大胆だな。どこへ行ったのか心当たりは? ……ないのか。分かった、こちらでも当たってみる」
鈴木が電話を切ると、清本が目の前にいて驚く。
「ぅわッ! キヨ、近いぞ! ビックリすんじゃねーか!」
「スーさん! 沙良さんが連れ去られたんですか? 伯母真里子にですか!」
鈴木は清本のその勢いに驚きつつ、息を整えて答えた。
「おぅ、そうらしい。百貨店から堂々と連れ去って目撃者も沢山いる。だからそのままお嬢さんをどうにかするなんて短慮なマネはしねーとは思うが……」
「それだって、真里子がどんな言い訳をするのか分かったもんじゃないじゃないですか! 途中で沙良さんが勝手に居なくなったから自分は知らない、とか平気で嘘を言いそうじゃないですか!」
そう言って清本は走り出す。
「ちょっ……、待てってキヨ! どこに行く気だ!」
「分かんないですけど……とりあえずは真里子の自宅です! 居なくても真里子の夫に話を聞きます!」
「お、おう……。とりあえずはそこしかねーか。オイ、置いてくなよキヨ!」
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