第11話 未来
……本当は、ずっと沙良のことが気に入らなかったんだと思う。
私高橋未来が大学で、同じサークルだった『高木沙良』。同期の女子の中で一番可愛く男子からの人気も高かった。だけど話してみると少し天然ながらも良い子で女子からも案外好かれていた。
『未来。貴女のネイルって素敵ね』
そうふんわりと笑って私にも声を掛けてくれた。
そして彼女が良いところのお嬢さんである事も皆聞かずとも分かった。彼女の品が良いのもあるけど、ちょっと世間ズレしていて持っている物も質の良いものばかり。
私は私立の進学校に通ってた位の一般人だから、時に沙良と自分の育ってきた環境の違いをまざまざと見せ付けられた気がして苛つく事もあった。
そんな彼女に恋人が出来た。
同じサークルの一つ上の先輩松浦拓人。この人も女子の間ではダントツの人気だった。
……美男美女ってヤツ? でもこの拓人先輩って、明らかに金持ち目当てだと思うんだよね。沙良本人が良いなら何も言わないけど。
そして可もなく不可もない大学生活が終わり、私はまあまあの企業に就職した。
……だけど、世間は理不尽な事ばかり。
そして私生活でも私は恋人に二股をかけられて手酷く振られてしまった。
……なによ、なによ! 私だけだって……、愛してるってあんなに言ってたくせにッ!
私がバーでヤケ酒を飲んでいると、近くにどこか見た事があるような男性がいる。仕立ての良いスーツを着たその男性もヤケ酒なのかなと感じた。
そしてよく見ると、その男性は友人沙良の恋人拓人だった。
私は思わず声を掛けた。彼はもう既に少し酔っているようだった。そして話を聞いている内に、彼らがつい最近婚約した事、そして拓人が沙良との育って来た環境や感覚の違いに悩んでいる事を知る。
……そんなの、最初から分かっていた事じゃない。
私はそう思ったけれどそれは口に出さなかった。それに、なんだかんだ言って拓人が沙良を愛しているんだと感じて、少し苛立ってもいたから。
……私は恋人に二股をかけられて別れたっていうのに。
……沙良はズルい。
……お金も育った環境も、そしてこんなに愛してくれる恋人までいるなんて。
私の中で、ドロリとした黒い感情が湧き出していた。
そして、私は拓人の腕に自分の胸を押し付け、上目遣いで言った。
「……私、ずっと拓人のこと、良いなって思ってたのよ? それを沙良に取られちゃって……。沙良とは友人だから、ずっと隠してたの。だけど、やっぱり拓人が好き……」
拓人の目に仄暗い光が見えた。
それから、拓人と私は付き合うようになった。拓人は沙良との婚約は続けていたけど、私は沙良から恋人を奪えてその彼が私を優先してくれている事に優越感を覚えて満足していた。
私が初めて沙良に勝てたのだ、と。
しかし、破滅の足音は確かに近付いていた……。
◇
ある日沙良が、事故に遭ったと聞いた。
それから拓人と、全く連絡が取れなくなった。
そして、社内で私が友人の婚約者を奪ったと噂になった。どうしてその事がバレたのか。沙良も拓人も、私の会社とは関係ないのに。そして何故か大学時代の友人達もその事を知っていた。
どうしてこんなことになったのか分からなかった。けれど何もかもに追い詰められた私は会社を辞めざるをえなかった。
そうして暫く経つと、沙良の両親が事故死しその後拓人と沙良が結婚した噂を聞いた。
沙良が……、自分の事故で拓人を縛り付け更に両親の死で彼に泣いて縋りつき、拓人に無理矢理結婚を迫ったに違いない。そして沙良が私の悪い噂を広めたのだ。そうに違いない!
……だって、拓人は私を選んでくれたのだから。
私はこんな状況になっても美しく整えたあの日沙良に褒められた自慢のネイルをした手を、強く握り締めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます